こまつ座「太鼓たたいて笛ふいて」林芙美子の心の漂泊を大竹しのぶが絶妙に演じ切っている
2002年に初演。前回から10年ぶり、5度目の再演となるが、上演するたびに舞台のテーマと反比例するように世の中のキナ臭さが増しているようだ。
主人公の林芙美子は私生児として生まれ、養父・実母と共に行商を営みながら日本の各地を放浪。実際につけていた日記をもとにした自伝的小説「放浪記」(1928年)がベストセラーとなる。当時の女性が置かれた悲惨な現実を描いたことから抑圧された女性たちの共感を得たのだが、売れっ子作家になると、次第に国家に絡めとられていく。
1935年、戦争の足音が聞こえ始めた頃、後に政府の宣伝担当になる音楽プロデューサーが芙美子にささやく。
「世の中を動かすのは『ものがたり』です。今も昔も変わらないのは『戦争は儲かる』というものがたり。その『ものがたり』に国も国民大衆も熱狂するのです」
時流に合わせるかのように、芙美子は従軍記者として戦地に赴き、戦争を賛美し、兵隊の士気を高めた。