ディオバン事件のその後 日本では論文捏造は罪にならず?
ディオバン事件は、高木兼寛の業績が今の医学会においても無視され続けている現状をあからさまにしています。論理の証拠を重視し、事実の証拠を軽視し、「事実など捏造してしまえばよい」という変わらぬ状況です。彼が設立した慈恵医大の慈恵心臓研究が、その最初の研究であったことは象徴的ともいえるでしょう。
この事件の発端の一つは、慈恵医大の研究が掲載された「ランセット」という医学誌へのある投稿でした。この投稿は京都大学の循環器内科の医師より送られたもので、慈恵と続いて報告された京都府立医大の研究論文の血圧データが、ディオバンのグループと比較対照の他の降圧薬のグループであまりにぴったり一致していて、統計学的にはあり得ないという指摘です。
やがて研究に関わっていた大阪市大の研究員が実は元ノバルティス社の社員であることが判明し、事態は大きく動いていきます。これらの事実を重く見た日本循環器学会が検証に動き、さまざまなデータ捏造が、ディオバンに関わる5つの臨床試験で明らかになっていきます。
その後、ディオバンの発売元であるノバルティス社とデータ捏造を行ったとされる元社員とが告訴され、訴訟となりましたが、2017年3月16日、東京地方裁判所は、元社員、ノバルティス社双方に無実を言い渡しました。元社員が意図的にデータの水増しや改ざんをしたと認定したものの、学術雑誌に掲載された論文に捏造があったとしても、薬事法で禁じられた誇大広告に当たるものではない、裁判所の判断もそのようなものだったのです。