体内では毎日無数のがんが出来るのに健康でいられる理由
免疫には、「免疫寛容」という仕組みが備わっている。免疫が自身の細胞を攻撃しないためだ。獲得免疫であるT細胞は、胸腺というところでつくられる。そこでは自分自身を異物として認識するT細胞受容体(TCR)を持つT細胞を取り除く。そうすることで自己免疫疾患を起こさないようにしている。国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。
「がん細胞が生まれると、まず自然免疫が攻撃します。NK細胞がサイトカインを浴びせたり、マクロファージが貪食したりします。そしてがん細胞に免疫応答を引き出します。そのことで獲得免疫ががん細胞の存在を認識して、さらに強力な攻撃を仕掛けるのです」
このとき最も重要な働きをするのが自然免疫のひとつである樹状細胞だ。獲得免疫全体の司令塔的な役割を果たすこの細胞は、がん抗原を認識すると活性化して、免疫に関わる他の細胞たちにその抗原を示すことでがん細胞の存在を通報する。攻撃力のあるT細胞のうちヘルパーT細胞はがん抗原を認識すると、キラーT細胞という殺し屋が活性化され、Fasリガンドなどの細胞障害性物質でがん細胞を攻撃する。一方、ヘルパーT細胞はB細胞に指示してがん抗原に対するがん抗体をつくらせ、これを特異的に結合させてがん細胞を除去する。