ヤマカガシには毒を注入する「毒牙」がなく毒の被害は珍しい
もうひとつは「デュベルノイ腺」と呼ばれる上顎の器官から分泌される毒液です。なかなか強力な毒で、その作用が分かってきたため毒ヘビと認定されるに至ったのです。ただしヤマカガシには、毒を効率よく相手に注入するための毒牙がありません。その点が他の毒ヘビとの大きな違いです。
毒ヘビは一般に「毒腺」(毒を作り出す)、「導管」(毒を牙に運ぶ)、「毒牙」の3つを備えており、とりわけ毒牙は毒液を獲物に効率よく注入するための構造をしています。たとえばマムシの牙は管牙といって、牙の中が管状になっており、注射器のように毒液を打ち込むことができます。またコブラなどは溝牙といい、牙に溝があって、そこを毒液が流れて相手に届くようになっています。毒の一部は外にこぼれてしまうため管牙よりも効率は悪いですが、毒量で補っています。
■咬まれても必ずしも毒に当たらない理由
ところが、ヤマカガシにはそうした牙がありません。その代わり上顎の奥歯が鋭い剃刀状(長さ2~3ミリ)になっており、これで相手の皮膚に切り傷を付けることができます。また奥歯の前に導管の開口部があって、そこから毒液が滴り落ちるようになっています。運が良ければ(咬まれた側にとっては運が悪ければ)、毒液が傷口から相手の体内に浸み込むという仕掛けです。しかし、咬まれても大抵は前歯だけにとどまるので、ヤマカガシの有毒咬傷が成立するのは、かなり珍しいことなのです。