著者のコラム一覧
和田秀樹精神科医

1960年6月、大阪府出身。85年に東京大学医学部を卒業。精神科医。東大病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書多数。「80歳の壁」(幻冬舎、税込み990円)は現在、50万部のベストセラーに。最新刊「70歳の正解」(同)も好評発売中。

健康維持に大切なのは「引き算の治療」より「足し算の治療」 高齢者には特に重要

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 血圧やコレステロール値、血糖値などが高くて薬を服用して数値を下げている方は少なくないでしょう。私は、検査で異常値をあぶり出して薬で正常値に下げる治療を「引き算の治療」と呼んでいます。

 しかし、私が健康を維持する上で重要視するのは「引き算の治療」ではなく、「足し算の治療」です。特に30年以上、高齢者の診察を続け、アンチエイジング医療も行う私としては、高齢者は特に「足し算の治療」が重要だと考えています。

 高齢になると、食事が減って栄養が不足したり、男性ホルモンの分泌も減り、運動量も少なくなりがちです。神経伝達物質の一つセロトニンもそう。減ってくるものがたくさんあるのですから、補うことが重要でしょう。その考え方に基づいた治療が、「足し算の治療」になります。

 この連載でも紹介したように男性ホルモンの分泌が減ると、性欲だけでなく、意欲が低下しやすい。そうすると、外出しようとしなくなり、人間関係が希薄になります。記憶力や判断力も低下してきて、ボケるリスクも高くなるのです。

 男性ホルモンを考える上で重要なことが、もうひとつあります。男性ホルモンはかつてドーピングにも使われたことがあるように、男性ホルモンの分泌が多い方は、少ない方に比べて筋肉がつきやすい。この点に着目すると、高齢者は男性ホルモンを補うことは、とても大切なのです。

 私のクリニックを受診された方を調べると、やっぱり男性ホルモンの分泌が少ない方がたくさんいます。そういう人たちに、おおむね注射で男性ホルモンを補充すると、目に見えて元気になるのです。

「久しぶりに朝勃ちしました」「10年ぶりに風俗に行きました」

 70代の男性患者さんからそんなメールが届いたことは、決して珍しくありません。

 サルコペニアは、高齢になって筋肉量と筋力が減少する状態を意味します。また、骨や関節にも障害が起こって歩行機能が低下するロコモティブシンドロームも、高齢者の健康を障害します。これらになると、要介護リスクを高め、認知症や寝たきりにも密接に関係するのです。

 男性ホルモンを補充すると、意欲がアップして活動的になります。そうすると、減少する筋肉量や筋力もキープできるため、サルコペニアやロコモの予防にもなり、ひいては要介護状態への悪化を食い止め、認知症や寝たきりなどを防ぐことにもなるのです。

 注射が嫌だという方はせめて積極的に肉を食べることをお勧めします。肉に含まれるコレステロールは男性ホルモンの材料です。また、適度な運動も男性ホルモンを増やすといわれますから、肉を食べながら、散歩するとよいでしょう。

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