フェンシング男子エペ団体「金」見延和靖<2>選手村のジムで起きた大逆転劇、包丁研ぎで無心になる
見延和靖(34歳、フェンシング男子エペ団体、金メダル/ネクサス)
2020年3月、東京五輪の1年延期が決定。新型コロナウイルス感染拡大の影響で満足に団体メンバーと会うことができず、「団結力」という言葉が音を立てて崩れる危機感を抱いた。
■コロナ禍で養えなかったフェンシングならではの「気配」
「会えない期間が続いたのは大変でした。(メールやLINEなどの)文章だけでは伝えきれない気持ちがある。僕に文章能力がないからかもしれないですが。何度かオンラインミーティングを設けましたけど、それでもやっぱり、会って話さないと空気を伝えきれない部分があると感じていた。特に僕たちは対人競技であり、相手の気配を感じ取りながら競技をしているので、『察する能力』が必要不可欠。その『気配』をベースにやってきたので、これまでは言葉以上のことを感じ取ってくれる選手もいたけど、今回はそこを感じ取りきれない部分があってつらかった」
開催直前の延期決定も傷口を広げた。
「延期決定の数カ月前までどっちに転ぶか分からないという状況が続いて、あのときが一番苦しかった。もともと東京でやめるつもりはなかったので、モチベーションという意味では東京は通過点でしかなかったけど、僕たちの職業(フェンシング)で一番大事なのは調子の波をつくること。いかに勝つべき日に調子を上げてこられるかにかかっている。なかなかスタートを切れず、大きな波をつくれない難しさがありました」