「眩 くらら」朝井まかて著
葛飾北斎の娘、葛飾応為ことお栄が主人公。父と同じく、幼い頃から絵筆を持ってさえいれば幸せだったお栄だが、縁談を勧める母のしつこさに負けて同じ絵師に嫁ぐ。しかし、家事など一切無頓着なお栄は事あるごとに亭主と衝突、ついに愛想を尽かして実家に戻ってしまう。母の嫌みもどこ吹く風、ひたすら絵に没頭していく。北斎の右腕として春画から風景画までこなしてきたお栄だが、どこかで「親父どの」から離れて独自の絵を求めるようになっていた。
折から長崎のシーボルトから西洋画の依頼が舞い込む。西洋画の遠近法、陰影の付け方に新しい絵のヒントを受けるが、なかなか思うようにいかない。そんな彼女の悩みを理解してくれるのは、浮世絵師で戯作者の渓斎英泉こと善次郎。善次郎への思いを隠しながら己の絵を目指すお栄だが、父の病気、母の死、甥っ子の放蕩と難題が次々と襲ってくる――。
父の血を受け継ぎつつも、レンブラントを彷彿させる名画「吉原格子先之図」を生み出すに至る天才女絵師の奔放な生涯を鮮やかに描き出す力作。(新潮社 1700円+税)