「サブマリン」伊坂幸太郎著
ある日の早朝、無免許の19歳の少年・棚岡佑真の運転する車が暴走し、ジョギング中の男をはねてしまう事件が起こった。無免許の未成年者による死亡事故とあって家裁調査官が招集され、マイペースな行動で周囲を翻弄するが憎めないキャラクターの陣内、陣内に辟易しつつもなんとか調査をすすめようとする武藤、やる気があるのかどうかつかめないクールな女性調査官・木更津が担当することに。
何を聞いても「はい」しか言わない棚岡と、とりとめもない雑談ばかりする陣内の横で途方に暮れる武藤は、棚岡が両親を自動車事故で亡くしていたことに引っかかりを感じる。そして思いつきのような陣内の行動から、思わぬ展開が始まるのだが……。
2004年刊行の人気作品「チルドレン」に登場した家裁調査官・陣内と武藤のコンビが活躍する書き下ろし長編。被害者や加害者の心情に予想外の方法で入りこんでしまう陣内と、わかったような結論に逃げずに自分なりにひとつひとつ考えをまとめていく武藤の着実さが、悲劇的な事件を優しくすくい上げていく。重いテーマを扱いながらも、ふたりの軽妙な会話が楽しい。(講談社 1500円+税)