「トロイカ」緊縮策でますます混迷を深めるギリシャ
2010年以降、国家債務危機からユーロ圏離脱危機にまでさらされたギリシャ。その状況は17年となった今日でも全く改善されておらず、社会の混迷はますます深まる一方だ。
尾上修悟著「ギリシャ危機と揺らぐ欧州民主主義」(明石書店 2800円+税)では、ギリシャ危機を打開するどころか、より一層深めている、欧州による支援政策の誤りをひもといていく。
債務危機が始まって以降、ギリシャは欧州連合、国際通貨基金、欧州中央銀行の3組織から成る通称「トロイカ」によって金融支援を受ける代わりに、厳しい緊縮策を課されてきた。これによってトロイカは、ギリシャの財政収支を改善し、国際金融市場での信頼も回復できると信じていた。
ところが、フランスの著名な経済ジャーナリストであるM・サンティをはじめ多くの専門家は、緊縮策はかえってギリシャから消費力を奪い、投資を破壊し、景気後退を招く逆効果となると警告していたという。結論は、彼らの言うとおり。GDPの下落、債務の対GDP比上昇、そして一層の緊縮という悪循環をもたらすこととなっている。
実際、トロイカの課した緊縮策は、ギリシャにどのような影響を及ぼしたのか。たとえば、単一通貨から成るユーロ圏では、各加盟国の輸出競争力の増強を図るため、「対内切り下げ」というアイデアが教義とすらなってきた。これは、ユーロを切り下げる代わりに、国内での単位時間当たり労働コストを下げることにより輸出価格を下落させ、輸出競争力を増大するという考えだ。10年以降、ギリシャに対しても対内切り下げは当たり前のように求められた。
ところが、近年のギリシャの輸出は、化学製品や薬品など、労働集約型ではなく資本集約型に集中していた。結果、輸出増を図るうえで労働コストは限定的な役割しか持たず、対内切り下げは労働者の購買力を低下させて内需の総崩れにつながったのだ。
本書では、貧困にあえぐ国民の声を受けて勝利した左派政党の台頭や、欧州内改革に声を上げた若者たちの活動にも注目していく。
今後の欧州情勢を知るための必読書だ。