「禁断のパンダ(上・下)」拓未司著

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「味の求道者」といって思い浮かぶのは、漫画「美味しんぼ」の海原雄山だろう。雄山の美食への飽くなき追求と、そのためには妻子をも犠牲にする強烈な我欲が作品の主旋律となっている。

 本書に登場する料理評論家の“ゴッド中島”こと中島弘道も、雄山に負けないほどの鋭い味覚の持ち主で、美食へのこだわりも尋常ではない。

【あらすじ】柴山幸太は関西屈指のフレンチレストランで7年間、修業した後、25歳で神戸市中央区に10坪ほどのフレンチスタイルのビストロを開業。固定のメニューはなく、その日仕入れた食材を自在にアレンジしリーズナブルな値段で提供し、開店から4年の現在、界隈で一番の人気店となっていた。

 開店3年目には店の常連だった綾香と結婚し、もうすぐ第1子が生まれる。綾香に友人の結婚式に一緒に出てほしいと頼まれた幸太。最初は気乗りがしなかったが、披露宴会場が世界的に有名なレストラン評価本で満点を獲得した「キュイジーヌ・ド・デュウ」だと聞き喜んで出かける。そこで出会ったのが新郎の祖父、中島弘道だ。天才シェフ石国努の手になる料理も素晴らしかったが、それを味わう中島の並外れた味覚に幸太は圧倒される。

 だが、結婚式の翌日、中島の義理の息子、木下の経営する会社の事業部長が殺害される。おまけに木下も行方不明になってしまう。一体何が起こったのか。事件は意想外な展開を遂げ、幸太を巻き込みながら驚愕の結末へとなだれ込んでいく。

【読みどころ】フランス料理店に勤務していた著者だけに、出てくる料理やワインの描写は秀逸。その垂涎の描写と人間の欲望の行き着く果てを垣間見せる終盤との落差に、異様な眩惑感に襲われる。 <石>(宝島社 各476円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

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