「世界の書店を旅する」ホルヘ・カリオン著 野中邦子訳

公開日: 更新日:

 ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープ主演の映画「恋におちて」は、クリスマスイブの夕刻、ニューヨークの老舗書店リゾーリのレジの前でぶつかった男女の本が入れ替わってしまうところから物語が始まる。メグ・ライアンとトム・ハンクスの「ユー・ガット・メール」に登場する小さな絵本専門店も印象的だ。その他、ちょっとした場面に書店が出てくる映画やドラマは意外に多い。書店という存在には、どこかしら非日常的な雰囲気があるのだろうか。

 本書は、「どんな書店にも世界が凝縮されている。あなたの国とその言語を、異なる言語が話される広大な地域へとつないでいるのは、飛行経路ではなく、書棚に挟まれている細い回廊だ」と語る著者が、世界各地の書店を訪れ、その歴史や関わりのある作家、その店が登場する小説や映画などを取り上げながら、書店とは何かを捉えようとする紀行エッセーだ。

 旅はアテネのギリシャ国立図書館の向かいの「本の回廊」に並ぶ書店から始まり、世界最古の書店、リスボンのベルトラン書店へ、そして20世紀初頭、ヘミングウェー、スコット・フィッツジェラルドらのロスト・ジェネレーションの作家が集い、ジェームズ・ジョイスの「ユリシーズ」を出版したパリのシェークスピア・アンド・カンパニーへと向かう。

 次いで、ベルリンのカール・マルクス書店、ウィリアム・バロウズが暮らしていたタンジールのコロンヌ書店……そして南米最南端のウシュアイアの監獄博物館の土産物屋まで。残念ながら、日本の書店はリブロと丸善の名前が一瞬出てくるだけ。

 リアル書店の衰退は世界共通で、その中で、いかに生き延びていくかの具体的な書店の取り組みも語られている。書店への大いなる応援歌でもある。 <狸>(白水社 3200円+税)



【連載】本の森

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  4. 4

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 5

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  1. 6

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  2. 7

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり

  3. 8

    天皇一家の生活費360万円を窃盗! 懲戒免職された25歳の侍従職は何者なのか

  4. 9

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  5. 10

    遅すぎた江藤拓農相の“更迭”…噴飯言い訳に地元・宮崎もカンカン! 後任は小泉進次郎氏を起用ヘ