結婚、不倫、失恋・・・文豪から学ぶ恋愛テクニック

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 コロナ禍で休日は“巣ごもり”する機会も増えた。一方で、在宅ワークで夫婦仲がギクシャク。不倫相手と揉めたり、婚活を諦めた人も多いだろう。そんな人にお薦めなのが文豪たちの小説だ。「恋愛学で読みとく文豪の恋」(光文社新書)の著者で、早大教授の森川友義氏に“悩み別”に読むべき小説を紹介してもらおう。

「風立ちぬ」 堀辰雄著

 ジブリ映画にもなった同作は、1933年に軽井沢で出会った節子と私(堀辰雄)のラブストーリー。結核を患う節子と看病する私が短い同棲期間の中でどう恋愛を表現し、お互い“幸福”を享受しているかをこまやかに描いている。

「婚約中で幸福な家庭を築きたい人や、夫婦生活を改善したいと願っている人に読んでもらいたいです。厳密に言えば『私』と節子は結婚に至っていませんが、療養所で一緒に暮らしていました。節子は安静を命じられて寝たきりになり、やがて死をみとることになりますが、小説の最頻出語は『幸福・幸せ』でした。次いで『死』と『生(きる)』が続きます。作品のメインテーマは人生における生と死をどう見つめるかですが、その『生』が続くつかの間の『幸福』とは何かを考えさせられるのです。作品を読み進める上で、恋愛のプロセスである、お互いほほ笑み合い、言葉で『好き』を表現し、近距離で相手のにおいを嗅ぎ、手をつなぎ、キスをすることの重要性を改めて感じることができます。セックスすることばかりが愛情表現ではなく、良好な関係には五感を使った恋愛テクニックが必要であることが実感できます」

 セックスレスで悩む夫婦は、お互いが無条件に「好き」だった頃に戻ることができる。

「蒲団」 田山花袋著

 不倫したい人や不倫中のサラリーマンに参考になるという。主人公は文学者で子どもが3人いる既婚者、竹中時雄(34歳)。弟子の横山芳子(19歳)を好きになってしまい、不倫の妄想をするという話。時雄は芳子と不倫したくていろいろ妄想をするが、妄想するだけで行動には移さない。

 そのうち、芳子に別な好きな人ができ、その相手と肉体関係があることが発覚。勝手に怒った時雄は芳子を追い出してしまう――。

「時雄は、追い出した芳子を思い出そうとして彼女の蒲団に入り、残り香を嗅ぐところで小説は終わります。不倫をしたいというプロセスが克明で、既婚者なら多くの人が通る道。恋愛において匂い(体臭)の重要性も表現されています。本作を通じて得られる恋愛テクニックは、不倫を実行するかしないのかの方程式です。不倫の意思決定=不倫で得られる利得―【(不倫発覚の確率)×(発覚後のダメージ)+(倫理観)】で計算することができます。この方程式がプラスになれば、不倫をし、マイナスになると不倫は思いとどまることになります」

 後に花袋は「蒲団」を書いた当時を回想して随筆を残している。

〈…社会の道徳律に、伝統的社会の慣習に捉へられて、人間の多くが思ふままに振る舞ふことが出来ず、そのため表と裏と言つたやうな不自然な二次元的行動に落ちて行つてゐたことであつた〉

「時雄(花袋)は、社会道徳や伝統的社会の慣習に裏打ちされた『表』の良心と先生と生徒という関係を壊したくない道徳律が、『裏』の感情、恋愛感情に勝り、不倫行為を思いとどまったと考えられます。自身にとって、許されない恋愛感情がすべてを上回るか、考えるきっかけになります」

 ちなみに、相模ゴム工業「ニッポンのセックス」などによれば、現在不倫中の男女は男性が26・9%、女性が16・3%。一生の間の不倫経験率となると、男性が74%、女性が29・6%と跳ね上がる。

「友情」武者小路実篤著

 片思い中、または失恋して失意のどん底にいる男女に手に取ってほしい一冊。主人公の野島、杉子、大宮の三角関係を描き、魅力に劣る大学生の野島が、一目惚れした杉子(16歳)にふられてしまうという失恋物語だ。最終的に杉子を売れっ子小説家である大宮(26歳)に奪われてしまう。

「野島の片思い、失恋が詳細に描写されています。特に本書では失恋から立ち直るためのテクニックを知ることができる。失恋から立ち直るには、相手に投資したお金、労力、時間の3つをどう他のことで埋め合わせるかの作業になります。通常、恋愛関係に入るとこれらを恋人に投資しますよね。デートに行って食事をするにはお金が必要で、同時に時間とエネルギーを消費します。だから、埋め合わせには、友達と酒を飲んで愚痴をこぼす、スポーツをして汗を流す、仕事に没頭するなどが効果的で、この作品では野島は大宮に『仕事の上で決闘しよう』と手紙を書いていますから、仕事に集中することで失恋から立ち直れるとしている。また、思い出を消去することも重要だと描いています。野島は親友でもあった大宮からもらった石膏でできたベートーベンのマスクを叩き割って捨てています」

 彼女を思い出す品を消去した上で、次の恋愛をするまでは会わないことも大事だという。

「ノルウェイの森」村上春樹著

 モテテクニックを知りたい人はもちろん、1968~70年の出来事を描写しているので、団塊の世代で当時の青春の恋愛を懐かしみたい人にも楽しめる。

 主人公は「僕」であるワタナベ・トオル。都内の私立大学に入学し、1年生の春から大学3年生の春くらいまでの話だ。ワタナベは、主に2人の女子大生を好きになるが、ひとりは自殺した高校の友だちキズキの恋人だった直子、もうひとりは大学の授業の同じ受講者である緑。2人の女性と関わる中で「死」に向き合っていく。

「読み応えがあるのは、緑が主人公ワタナベを落とすテクニック。マニュアル本としても使えます。たとえば、『戦略的服従』と『引き』の戦略を実践しています。戦略的服従とは、名を捨てて実を取る戦略で、相手に教えを請い、その過程で自分の目的を達成します。緑はワタナベに『演劇史Ⅱ』の授業のノートを貸してほしいと頼みます。数日後、ノートを返すためにもう一度会うことになりますが、緑は追いかけさせるための『引き』の戦略を使い、約束には現れません。ワタナベは、ノートを返してもらうため、翌週の『演劇史Ⅱ』の授業まで緑の存在を気にかけることになります。また、会話が途切れてもごまかせる『ランチョン』戦略、ミステリアスな自分を見せる『ギャップ』戦略のほか、『自己開示』戦略、『ミラーリング』効果、『自己肯定戦略』といったものは現在でも男女の駆け引きの中で使えるものばかりです」





 文豪たちの小説を読むと、恋愛のテクニックは明治、大正、昭和とやっていることは同じ。参考にしたい。

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