著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ヨンケイ!!」天沢夏月著

公開日: 更新日:

 ヨンケイとは、4×100メートルリレーのことだ。リレーは日本語で継走といい、4人の継走は「四継」だから、ヨンケイ。

 このヨンケイの不思議で、素晴らしい点は、4人のベストタイムの合計よりも、リレーのタイムのほうがいいこと。つまり、バトンでタイムが縮むわけである。個人競技が多い陸上で、そういうチームワークが結果に直結する競技は珍しい。

 にもかかわらず、離島・大島の渚台高校の陸上部(部員はたった5人。1人はハードルの選手なので、残りはぎりぎりの4人)の面々は、信頼もなく友情もなく、チームワークは最悪だ。リレーなんて走りたくない、というやつまでいたりする。

 彼らが都大会に出るには、支部予選で上位8校に入らなければならない。都大会には各支部上位8校の合計48校が出場し、その上位6校が関東大会に出場する。陸上部の佐藤先生は関東を狙うと言うのだが、その道のりは、はるかに遠い。ちなみに、関東大会には各県から6校で合計48校が出場し、その上位6校がインターハイに出場できる。めまいがしそうなほど遠い目標といっていい。

 というわけで、渚台高校の陸上部4人のドラマが始まっていく。それぞれの事情とドラマがゆっくりと語られていく。やや常套的ではあるものの、丁寧に、そして克明に描いていくので、どんどん物語に引きずり込まれる。彼らが走るときに頬に感じる風の匂いが、鮮やかに立ち上ってくる。

 (ポプラ社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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