古典と大衆向け曲作りを結んだ伊作曲家

公開日: 更新日:

「モリコーネ 映画が恋した音楽家」

 今年は新年早々うれしい映画、「モリコーネ 映画が恋した音楽家」が封切られる。

「荒野の用心棒」の口笛、「続・夕陽のガンマン」のコヨーテの遠吠え、「1900年」の民衆叙事、「ニュー・シネマ・パラダイス」のおセンチな調べ……。数々のメロディーがすぐに思い出されるイタリアの作曲家についての長編ドキュメンタリーだ。

 2時間半もあるのに飽きることが一切ない。映画の劇伴の作り手というだけでなく、音楽院で授かった古典の「絶対音楽」と大衆向けの曲作りを結ぶマエストロとして仰がれるまでの道程が、多数のシーンと曲の引用で明快かつ華やかに語られるからだ。

 医者志望だったのに楽団員の父にトランペットを習わされ、音楽院に進めば富裕な育ちの同級生に劣等感を抱く。実はクラシック界は日本でも偏った面が大きく、最近は「音大崩壊」なんて本もあるほど世間知らずだ。

 だが、モリコーネは生活のために商業音楽をいとわず、しかも流行歌にクラシックを、映画には前衛音楽を当てる挑戦や冒険にあえて挑んだ。彼は複数の旋律を組み合わせる対位法を得意としたが、音楽人生そのものが一種の対位法だったともいえるだろう。

 芸術性と商業性をまたぐという点で思い出されるのがアメリカの画家エドワード・ホッパー。米国美術史上最大の巨匠のひとりとされるが、挿絵画家として身過ぎした時期も長く、アメリカ的な孤絶をたたえた作風は多くの映画にも影響を与えたことが知られる。

 江崎聡子著「エドワード・ホッパー作品集」(東京美術 3850円)が行き届いた入門書として昨年出版されたばかりだ。モリコーネの音楽面については大著「あの音を求めて モリコーネ、音楽・映画・人生を語る」(フィルムアート社 4620円)が、若手の音楽家を聞き手に本人の生の声をくわしく伝えている。 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  2. 2

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  3. 3

    元フジ中野美奈子アナがテレビ出演で話題…"中居熱愛"イメージ払拭と政界進出の可能性

  4. 4

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  5. 5

    芸能界を去った中居正広氏と同じく白髪姿の小沢一敬…女性タレントが明かした近況

  1. 6

    中居正広氏と結託していた「B氏」の生態…チョコプラ松尾駿がものまねしていたコント動画が物議

  2. 7

    中居正広氏、石橋貴明に続く“セクハラ常習者”は戦々恐々 フジテレビ問題が日本版#MeToo運動へ

  3. 8

    中居正広氏が女子アナを狙い撃ちしたコンプレックスの深淵…ハイスペでなければ満たされない歪んだ欲望

  4. 9

    中居正広「華麗なる女性遍歴」とその裏にあるTV局との蜜月…ネットには「ジャニーさんの亡霊」の声も

  5. 10

    SixTONES松村北斗 周回遅れデビューで花開いた「元崖っぷちアイドルの可能性」