「更に、古くて素敵なクラシック・レコードたち」村上春樹著
人気作家が、自身の膨大なアナログレコードのコレクションから、お気に入りを紹介する私的レコードガイドの第2弾。
「この演奏家のこの曲の演奏が聴きたい」と目的意識を持って買ったレコードから、バーゲン箱を漁っていて「なんとなく面白そうだから」と適当に買ったものやジャケ買いなどで集まったコレクションの中には、「このレコードは一生手放したくない」と思うものから、「なんでこんなものがうちにあるんだろう」と首をひねりたくなるものまであるそうだ。
そうして聴き続けてきたレコード一枚一枚を「うちの書斎にお招きして、スピーカーの前のソファに座っていただき、『ほら、こんなレコードもうちにはあるんですよ』とジャケット見せて、音楽をお聴かせするような気持ちで」書かれたのが本書だ。
さっそく誰もがあこがれる氏の書斎に招かれた気分で開いてみると、最初にターンテーブルに置かれるのは「パガニーニ 24のカプリース(奇想曲)作品1」に5人のバイオリニストが挑んだ5枚のレコードだ。
そのうちの1枚は、イタリア系アメリカ人のルジェーロ・リッチが1947年、29歳のときに「カプリース」全曲を世界で初めてレコーディングした盤。「録音も演奏スタイルも今となっては少し古っぽいが、前人未到の領域に初めて挑む若者の心意気は十分伝わってくる」と評価する。
一方、1970年に録音されたルーマニア出身のコルネリア・ヴァシレの演奏は、「尖った刃物で切り込んでくるような鋭さ」があると絶賛。
このように、ひとつの楽曲に対して、2枚から6枚の演奏を聴き比べ、それぞれを評価。全104タイトルで500枚以上のレコードを氏の「書斎」で味わう、ファンにとっては至福の読書体験。
(文藝春秋 2750円)