植田日銀
「植田日銀 こう動く・こう変わる」清水功哉著
異次元緩和でフラフラのニッポン経済。植田日銀新総裁の動きを市場は固唾をのんで見守っている。
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「植田日銀 こう動く・こう変わる」清水功哉著
日銀史上初の学者総裁というので話題になった植田総裁。その人物像から業績、発想や思考方法までをベテラン経済記者がまとめたのが本書。日経紙上でこれまでにも複数回インタビューしているというだけあって鮮度もいい。
静岡生まれの72歳。東大で数学科を卒業した後、経済学部に学士入学して大学院へ。その後は米国留学を経てカナダ、大阪大で教壇に立ったのち大蔵省(当時)の研究官。その後また学窓に戻ってから東大で助教授、教授となった。
この間、大蔵省時代に同僚になったのが黒田前総裁。教育大駒場高校(当時)の先輩でもあったというから、案外縁は深い。東大時代にも休みを利用して日銀の客員研究員になったこともあるというから、実務の政策畑での視野もあるわけだ。
ちなみに著者は過去25年の歴代総裁は、経済学出身と法学出身者が交互というサイクルがあると指摘。経歴が総裁としての発想や理解にどう影響したかについても議論。そこから植田日銀が黒田時代から何を引き継ぎ、何を引き継いでないかへと話を及ぼす。
「2%物価目標」が実現できなさそうなときに植田日銀がどう出るかの予測など、経済記者らしい目の付けどころが特徴だ。 (日経BP 990円)
「日本銀行 我が国に迫る危機」河村小百合著
「日本銀行 我が国に迫る危機」河村小百合著
黒田日銀時代の異次元緩和政策には批判が後を絶たない。退任後のいまでさえ、その悪影響を指弾する声は根強い。本書もそのひとつ。著者は京大卒業後、日銀に入行して実務経験を積んだアナリスト。
あまたの批判を無視して異次元緩和を続けた「本当の理由」があったはずだという。「ひとたび利上げ局面に入れば、中央銀行としても財務運営はたちどころに悪化し、赤字に転落するのが確実な状態にすでに陥っている」。要は日本の円に対する信認が国際市場でガタ落ちする瀬戸際というわけだ。
その責任逃れで必死に「異次元」を継続。しかし、物価の安定は中央銀行の大事な任務。それを果たさないことの無為を鋭く批判する。
植田日銀の就任前に書かれた本書は、家計金融資産の豊かな日本は担税能力があっても、それについての国民の合意がないという。そこは政治の課題。それができないのはまさに政府の無策だ。 (講談社 1100円)
「新・金融政策入門」湯本雅士著
「新・金融政策入門」湯本雅士著
世間では日銀批判の声も強いが、金融政策は素人にはわかりにくいのも確か。本書は高度成長期に日銀で実務に携わったベテランが「基礎編」で金融政策のイロハを講じ、「政策編」で過去の実例をもとに解説するという仕掛け。「金融政策」というコトバの意味から解説するという懇切さがめだつ。まさに入門レベルから実務家レベルまでに対応した幅広さが本書の価値だろう。インフレの時代は選挙を意識する政治とインフレ克服を課題とする中央銀行の対立がめだつ。反対にデフレの時代は政治と中央銀行の共同が鮮明になる。これでいくと安倍政治と黒田日銀の蜜月ぶりは当然ともいえるわけだ。
とはいえ、それがよいか否かは別。政策編では主に米FRBのバーナンキ議長時代からの実例をもとに、折々の政策をくわしく解説する。植田日銀については巻末で軽く触れているだけだが、前途の多難さを示唆して終わっている。 (岩波書店 1056円)