「トリックスター群像」井波律子著
「トリックスター群像」井波律子著
中国の古典長編小説の物語構造において、トリックスターはなくてはならない存在だという。トリックスターとは、道化や悪戯者、ペテン師などの要素をあわせ持ち、老獪かつ狡猾なトリックを駆使して、既成の秩序にゆさぶりをかけてかく乱するアンチヒーローだ。
中国神話に登場する体は人間だが蹄があり、4つ目で手が6本の「蚩尤(しゆう)」や、論語の中の、毒性はないが集団の中で際立ってトンチンカンで波紋を呼ぶ孔子の弟子・子路のような存在だ。
本書は「三国志演義」の曹操や、「西遊記」の孫悟空と猪八戒、沙悟浄の従者トリオをはじめ、「水滸伝」「金瓶梅」「紅楼夢」の中国5大長編小説において、トリックスターが果たしている役割を考察しながら、その物語世界を解説したテキスト。
(潮出版社 1210円)