「今井龍満-偶然を生きるものたち1999-2023」今井龍満著
「今井龍満-偶然を生きるものたち1999-2023」今井龍満著
画家・今井龍満氏のデビュー前の作品から最新作までを集成した画集。
その作品は、体は目の覚めるようなイエロー、そしてピンクやスカイブルーが混じったカラフルなタテガミをもつ代表作の「Lion」(表紙)をはじめ、さまざまな生きものたちが、黒の輪郭線と自然とはかけ離れた彩色で描かれている。
一度見たら忘れられないほど、インパクトある氏の画風は、塗料をキャンバスや紙の上に滴らせて線状に描くポアリングという技法によって生み出される。
氏の場合は、黒のエナメルをペインティングナイフでポアリングして「生きるものたち」の輪郭線を描き、純色のアクリル絵の具で色を塗っている。
ポアリングは、筆やペインティングナイフから滴り落ちる塗料がキャンバスにたどり着くまで、画家は塗料の運動の軌道を制御できず、塗料の行方が制御不能であるがゆえに画家自身にも思いもよらぬ構図が生まれる。
それが「偶然を生きる」というシリーズのひとつの意味でもある。
Lionのほかにも、青色系の体毛に赤い差し色が入った「Raccoon Dog」(タヌキ)や、ピンク系のまだら模様の「Female Lion」(メスライオン)、薄紫と黄、青などがモザイクとなった「Elephant」(ゾウ)などの動物たちが描かれる。
どれも、よく知るお馴染みの動物たちなのだが、それはまた、これまで一度も見たことのない動物たちでもある。
ゆらぎのある線が生み出す動物たちは、どこか人間じみた表情をしており、見る者にさまざまなことを語りかけてくる。
横一列になって、こちらに向かってピンクや紫の8頭の馬たちが駆けてくる「8 Horses」や、海面に飛び出しジャンプする「Whale」(クジラ)、じゃれ合うように群れ飛ぶ「Seagulls」(カモメ)など、ゆらぎのある線は動物たちに命を与え、躍動感を生み出す。
氏がポアリングという技法に目覚め、家で飼っていた猫を描いた1999年の作品や、本格的に活動を始める前の2005年から09年ごろにかけて街中で見かけた個性的な人たちを記憶にとどめて描いた人物像などの初期作品から、展覧会のために描き下ろした大作「Dragon」まで、その画業を一望。
動物たちは、ときに不条理さを含めたコントロールできない「偶然」の中に生きている。その偶然の中で動物たちはひたすら今ある生をまっとうする。
そんな偶然を生きるものたちの生のあり方が、「偶然はコントロールできないもの」という氏の人生観と重なる。これこそが氏が動物を描く理由という。
氏の描く動物たちの瞳は、おまえたち人間はどう生きているのかと問いかけているかのようだ。
(求龍堂 3080円)