「富豪に仕える」アリゼ・デルピエール著 ダコスタ吉村花子訳
「富豪に仕える」アリゼ・デルピエール著 ダコスタ吉村花子訳
日本では昔のドラマなどに登場した「使用人」は、欧米のある階層の人たちにとっては、今でも当たり前の存在だという。本書は、社会学者の著者がフランスにおいて多数のフルタイムで働く使用人と、その雇用主である富豪たちへのインタビューを通し、労働問題を学術的に掘り下げたルポだ。
13歳のときにパリにやってきたマリ出身のファトゥーは、レジ係を辞めフランス大貴族の流れをくむ一家で勤めるようになった。給料は悪くなく、時には雇用主からシルクのスカーフなどのプレゼントもある。住み込みなので一日中気の休まる間はなく自由時間もないが、使用人職を求める人の多くは、ファトゥーのようにさまざまな特典を得られる富豪のもとで働くことを望むという。
使用人のほとんどが女性であり、移民である。人種的ステレオタイプで判断され、名前を雇用主好みに変えられることもあるが「従順を演じる」と割り切る人は多い。
一方、雇用主側にも苦労がないわけではない。富豪の仲間入りをするために使用人を雇うニューリッチや、使用人のいる生活に慣れず落ち着かないと心情を吐露する者もいる。
親密さと搾取が同居する知られざる使用人の世界に驚くこと間違いなしだ。
(新評論 2420円)