「板上に咲く」原田マハ著
「板上に咲く」原田マハ著
地を這う姿勢で版木に覆いかぶさり、板に顔を接近させ、なめるように指で彫り目を確かめながら版木をザクザクと削っていく──。
本書は元々の弱視から、やがて左目の視力を失った版画家、棟方志功の半生を、妻チヤの目を通して描いたアート小説である。
棟方は17歳のときに見たゴッホの「ひまわり」に心奪われ「ワぁ、ゴッホになる!」と決心し、1924年、一念発起して青森から上京。しかし、油絵は我流、画材を買う金もなく帝展に落ち続け、悪戦苦闘する中で見いだしたのが、木版画の道だった。
「画家先生というより愛嬌ある子熊のよう」と棟方のことを思っていたチヤは、弘前での偶然の再会を機に結婚。しかし、結婚しても貧乏暮らしは変わらず、雑草が食卓に並ぶ日々。チヤは版画に使う墨を毎晩すって用意し、寝食を忘れ、制作に没頭する夫を支え続けた。
棟方は底抜けに明るく、感動するとすぐに泣き、褒められると大喜びで、えらい先生にも抱きついた。頭は常に版画のことでいっぱいで、“産み”のときが訪れると、全身を彫刻刀にしてぶつけていった。やがて、日本に初めてゴッホを紹介した柳宗悦に見いだされ、棟方は「世界のムナカタ」へ──。
芸術という多難な道を夫婦で進んでいった苦難の日々がありありと浮かんでくる。
(幻冬舎 1870円)