「立岡秀之写真集Ⅲ『絆』CAMBODIA2012-2023」立岡秀之著

公開日: 更新日:

「立岡秀之写真集Ⅲ『絆』CAMBODIA2012-2023」立岡秀之著

 1970年代から20年以上続いた内戦と、ポル・ポト政権による圧政と虐殺で、国民の3割もの多大な犠牲者を出し荒廃したカンボジア。

 2003年から現地に通い、その復興に寄り添いながら人々との交流を重ねてきた著者による写真集の第3弾。

 本書には2012年以降、コロナ禍を挟んで昨年までに撮影された写真が収められている。

 世界最大級の石造寺院「アンコールワット」を遠望する池の前に集まった少年や青年の写真をはじめ、仏教寺院のアンコールトムなど、まずは国を象徴する遺跡の写真を紹介。

 続いて、水に感謝をささげるお祭り「水祭り」を盛り上げるボートレースや、木彫りなどの伝統工芸、さらに影絵芝居「スバエクトム」などの伝統芸能など。一時は完全に破壊された伝統文化の復興や継承に人々が取り組んでいる姿が伝えられる。

 中には、ポル・ポト政権下で若い踊り手たちの多くが命を落とし、一時は消えかけたクメール古典舞踊の復興に人生を捧げた2人の名手で「生き字引」と呼ばれたエム・ティエイ氏と、「人間国宝」と称えられるオム・ユヴァンナー氏が弟子たちの前で踊る最後の共演に立ち会った際の写真もある(お2人とも2021年に逝去)。

 若者たちでにぎわう夜の街や、ゾウやライオン、仏像などの巨大なモニュメントが立つ広場の周りを行き交う車やバイク、そして街中にそびえる近代的なビル、さらに川のほとりで憩うカップルや地元の人々など、どの写真からも過去の歴史の暗い影を感じることはなく、すでに本来の国の姿を取り戻したかのようにも見える。

 ほかにも、魚や野菜から袋入りのジュースまで、さまざまなモノが売られる露店や、道に椅子を置いただけの床屋、街中で出会った結婚式の一行、大量の荷物を積んで走るバイクなど、人々の日常の暮らしから、かの国の活気が伝わってくる。

 しかし、内戦が終わって20年以上が経っても農村部には膨大な数の地雷が残り、復興の妨げになっている。今も続く地雷撤去の現場の写真もあり、重機が入れない現場では地雷探知犬が活躍している。

 そんなページの合間に、長年、同国を定期的に訪れてきた著者ならではの写真が挟み込まれる。

 それは出会った子どもたちのその後の成長の軌跡だ。

 2003年、ソニータと出会ったのはスラムにある施設だった。施設では自立するために古典舞踊を練習して観光客から受け取るチップを生活の足しにしていた。

 その後、彼女は古典舞踊家となり、女優や歌手として芸能界でも活躍。家族の生活を支え、今は次世代向けのダンススクールを開設して子どもたちに教えている。

 ほかにも、生まれつき両腕がない少女スレイポイや、露店でザボンを売っていたスマイら、これから国を担っていく若い人たちの元気な姿に、同国の明るい未来が重なって見える。

(クレヴィス 3850円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  2. 2

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  3. 3

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  4. 4

    元横綱白鵬「相撲協会退職報道」で露呈したスカスカの人望…現状は《同じ一門からもかばう声なし》

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  1. 6

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  2. 7

    永野芽郁“二股不倫”疑惑でCM動画削除が加速…聞こえてきたスポンサー関係者の冷静すぎる「本音」

  3. 8

    佐々木朗希が患う「インピンジメント症候群」とは? 専門家は手術の可能性にまで言及

  4. 9

    綾瀬はるかは棚ぼた? 永野芽郁“失脚”でCM美女たちのポスト女王争奪戦が勃発

  5. 10

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり