「名古屋・青春・時代」長坂英生著
「名古屋・青春・時代」長坂英生著
かつて東海地方を中心に発行されていた夕刊紙「名古屋タイムズ」は、戦前の新聞が戦争の片棒を担いだことを憂い、そうした過ちを犯さないメディアになることを誓って終戦の翌年(1946年)に創刊。
戦争が多くの子どもの犠牲を強いたことから、創刊当初から「社会の宝」である少年少女や若者を励ます事業を展開し、紙面でも子どもや若者たちの日常をきめ細かく取材し、報道したという。
本書は、同紙の紙面を飾ったそうした子どもや若者たちの写真を編んだ写真集。
古くは1948年から休刊した2008年まで、60年にわたって撮影された東海地方の子ども、若者たちの青春の日々が収まっている。
表紙を飾るのは、金城学院高校のグリークラブ部員によるクリスマスキャロルの様子。
名古屋の中心部・栄にあった旧中日ビルの正面玄関ロビーのエスカレーターをひな壇にして部員たちが並び、「ホワイト・クリスマス」などを歌う恒例の行事だったそうだ。
そんな巻頭の特集カラー写真に続いて、中学生たちを主人公にした写真が並ぶ。
名古屋女学院短大(現・名古屋女子大学短期大学部)のサークルが主催したサマースクールに市内の15校から女子中学生150人が集まり、料理などを楽しむ昭和36年の写真に始まり、課外事業なのだろうか東山公園で遊ぶ制服姿の中学生ら(昭和47年)、国鉄(現JR)による東海3県の修学旅行専用車「こまどり号」の初運行日、東京に向かうため名古屋駅に集まった市内の中学生たちの写真へと続く。その後、昭和46年からは新幹線による修学旅行が始まり、出発早々、車内でトランプに興じる女子生徒らの楽しげな様子を写した写真もある。
夏休みを前に校舎を皆で大掃除する伊勢山中学の生徒たち(昭和37年)や、各校の卒業式、そして高校受験など、報道写真ゆえにその季節恒例の行事を追った写真も多数収録。
これらは主に昭和30年代から40年代に撮影されたものだが、どの写真を見ても、体育館や教室を埋め尽くす生徒の数の多さに目を奪われる。
一方で、平成20年で閉校になった県立田口高校稲武校舎での最後の卒業式を伝える写真があり、まさに少子化の現代とは隔世の感を抱く。
以降、高校の合格発表や入学式、そして登校風景など、知っている人はひとりも写っていないのに眺めているうちに自らの青春時代や同じ時間を過ごした友人らの顔が思い浮かんでくる。
中には、昭和34年、東海地方に甚大な被害をもたらした伊勢湾台風の復旧に立ち上がった高校生らの姿や、卒業式のあり方に抗議したり、反戦や万博反対を訴えたりする生徒たちによるハンストやデモの写真もある(昭和44、45年)。
人生の中で特別な輝きを放つ青春時代を活写した本書が、しばし読者を自らの青春時代へと導いてくれることだろう。
(桜山社 2200円)