「The Other Side」徳原海著
「The Other Side」徳原海著
2016年5月末、フリーのファッション編集者として多忙を極めていた著者は、「このままではダメだ。フランスに行こう」と思い立ち、翌月10日に開幕する「UEFA EURO2016」を観戦するため、パリ行きの航空券を購入する。
現地滞在日数はわずか1週間だったが、6試合分のチケットを手に入れ、5都市、総移動距離2000キロの旅で、その後のサッカー観や人生観そのものが変わったという。
本書は、その「UEFA EURO2016」の旅をはじめ、ヨーロッパ各地でのサッカー観戦の旅を記録したドキュメンタリー写真集。
EURO2016においてもっとも印象に残ったのは、サンテティエンヌの街だった。クリスティアーノ・ロナウド選手のポルトガル代表ユニホームの姿を見るのはこれが最後かもとチケットを取ったのだが、何よりも印象的だったのは初出場で決勝トーナメント進出という大躍進でこの大会の主役となったアイスランド代表を目の当たりにしたことだという。
人口わずか33万人の小国から代表を応援するために駆け付けた数万のアイスランド人たちが心から大会を楽しむ姿を目にできたことこそが著者にとっての旅のハイライトだったという。
アイスランド国旗をマントのようにまとった少年や、代表チームのユニホームを身にまとい、国旗とともにスタジアムに向かう人々など、写真に納まったサポーターたちの様子からも、その興奮と誇りが伝わってくる。
その10カ月後の2017年4月には、サッカーファンなら生涯に一度は訪ねてみたいと願う聖地のひとつ、スペインの大クラブ、レアル・マドリードのホーム、エスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウに向かう。対戦相手はドイツの王者バイエルン・ミュンヘン。
最寄りの地下鉄駅で降りて地上に出た瞬間、大通りは人で埋め尽くされ、発煙筒の煙が立ち込める中、爆竹の音と怒号のようなチャントが鳴り響く(写真①)。その熱量の高さに圧倒される。
8万人を収容するスタジアム内のボルテージは最高潮に達し、著者はこのすさまじいプレッシャーを受けながらプレーする選手たちを改めてリスペクトする。
以降、ロンドンやパリ、リスボンなど各都市のスタジアムでゲームを観戦。ビッグゲームだけではなく、スコットランドのグラスゴーの住宅街を歩いているときにたまたま見つけた古いスタジアムで2部リーグの試合を見たりもする。
そしてコロナを経て、2023年には3年ぶりにヨーロッパを再訪。リスボンを皮切りにミラノ、スペイン・ビルバオを巡る。旅の最後は、今なお自国で試合を行えないウクライナ代表の試合を観戦するためにポーランド第4の都市ウロツワフへと向かう。
足かけ8年、15の旅を臨場感あふれる写真とともに追憶。そして著者の旅は、終わることなく今も続く。
(ブートレグ 3850円)