「斬られの仙太」分断が進む現代社会 虚無と祈りの群像劇
初演は1934年。日本演劇界の巨人・三好十郎の最初期の作品で、中・長編小説といってもいいセリフ量の戯曲で、そのまま上演すれば7時間にも及ぶが、今回、演出の上村聡史は3幕4時間20分に凝縮した。80余の登場人物を早変わりで演じるのはフルオーディションで選ばれた16人の俳優。
主人公は常陸国の水のみ百姓・仙太(伊達暁)。兄が凶作のために年貢の減免をお上に訴えたが、百叩きの上、村を追われたのを見て仙太も出奔する。
一時はやくざに身を落とすが、帰村の途中で出会った郷士・甚伍左(青山勝)と水戸藩士・加多源次郎(小泉将臣)の思想に共鳴する。彼らは幕府転覆を謀る水戸天狗党の一味だ。甚伍左は洋学を学び、四民平等、議会主義の西欧事情に通じ、娘のお妙(浅野令子)は戦で親を失った孤児たちの世話をしている。
百姓のための世直しを信じた仙太は、腕がたつため重用され、百姓の募兵に尽力する。
しかし幕府軍に追い詰められた天狗党は敗走し、山岳を転々とする。
やがて天狗党の幹部たちは、百姓出身の仲間を容赦なく切り捨てる。侍の身分ではない者との「共闘」は投降の妨げになるからだ。それを見た仙太は天狗党の理念に疑問を抱き……。