「少ない資源の有効活用」が必要だと退院を勧められた
先日、高校時代の同級生であるY君と久しぶりに食事をする機会がありました。
Y君は進行肺がんで、骨に転移があり、緩和ケア病棟に入院して放射線治療を受けました。治療が一段落して退院したタイミングで食事をすることになったのです。
Y君は少しお酒を口にしながら「自分の命はもう長くない」と漏らし、「変な話なんだけど……」と前置きして、こんな話を始めました。
「自分は小さい頃から人の目を気にして、人の顔色ばかりうかがって生きてきた気がする。学生の頃は同級生から、会社に入ってからは上司に『要領が悪い』と言われ続けた。まあ、自分でもそう思ったけど、こればっかりはどうしようもない。ただ、自分の人生の最期は、もう人の目なんか気にしないで、生まれつきの要領の悪さも隠すことなく、重い鎧を脱いで、効率なんて忘れて、わがまま言って生きようと思っていたんだ。でも、ここにきて、会社から言われ続けた『少ない資源の有効活用』を思い出しちゃったよ」
Y君は40歳を過ぎてからは労務管理担当を任され、組合対策や“人減らし”を仕事にしてきました。職場の部屋の壁には「少ない資源の有効活用」と大きな文字で書かれた標語が貼られていて、Y君は毎日それを見ながらいかに効率を上げるかを考えて仕事を続けてきたといいます。上司からも、耳にタコができるほど「効率性優先」と「資源の有効活用」を言い聞かされていたそうです。