体験したからこそわかる 患者が繰り返す「再発の不安」
私がまだ医学生で臨床実習に入った頃のことです。浅い知識で病名をひたすら頭の中に詰め込み、若くして悪性リンパ腫で亡くなった患者さんのことを勉強させていただいていたちょうどその時、私自身が高熱と全身のリンパ節の腫大に見舞われ、1カ月ほど入院することになりました。
最初は担当医から「結核性のリンパ腫大かもしれない」と診断され、ストレプトマイシンなどの抗結核剤の治療を受けていました。それまで、自分が勉強していた病院の廊下を患者としてパジャマ姿で歩いていると、たまたま郷里の大先輩である外科教授にお会いしたのです。
教授は私の首のリンパ節に触れながら、「来週の火曜日に自分の手術予定に入れるから、生検して確定診断をつけよう」と心配そうな顔で言って下さいました。とてもありがたかったのですが、一方で教授の表情からそれまで自分で勝手に思っていた「悪性リンパ腫」という診断の不安がより増すことになりました。
その頃から自分が死んで解剖室に運ばれていくところ、コンクリートでできている解剖室の床を歩く下駄の音、骨になって郷里のお墓へ運ばれるところなど、いろいろな場面が頭の中を駆け巡ることになります。