コロナ禍の「受診控え」が関係か? 大動脈瘤破裂の緊急手術が増加中
コロナ禍で「受診控え」が増えている。それに伴って今後患者数が増加するだろうと指摘されている病気はいくつかあるが、そのひとつが「大動脈瘤」だ。
大動脈瘤は、大動脈の血管壁の一部が瘤のように膨らみ、正常の1.5倍以上になった状態。放置すると徐々に瘤が大きくなり、最終的に破裂する恐れがある。それが「大動脈瘤破裂」だ。
「大動脈瘤が破裂すると、多くは病院にたどり着くことすらできない」
こう言うのは、川崎大動脈センター副センター長の大島晋医師。同センターは、国内唯一の大動脈瘤・大動脈解離の治療専門施設になる。
大動脈瘤破裂は、ある日突然起こる。太い血管が破裂して胸や腹部に大量に出血し、急激なショック状態に陥る。大抵がこの段階で突然死となる。病院にたどり着き緊急手術を受けられても、手術してから30日以内の死亡率は17~20%。
「大動脈瘤破裂の前に、いかに大動脈瘤を見つけ出すか。破裂を起こしてから緊急手術を受けるのと、大動脈瘤の間に手術を受けるのとでは雲泥の差があります」
助かるためには破裂前の検査が重要
4つのポイントを押さえておきたい。
【60歳以上になったら全身のCT検査を受ける】
大動脈瘤は、大半が自覚症状がない。破裂前に発見するには、検査を受けるしかない。
「しかし健診で行う超音波検査では、一部の大動脈瘤しか分かりません。レントゲンも胸部の大きな大動脈瘤以外は見つけられません。大動脈瘤をしっかり調べるには、人間ドックで全身のCTを受けなくてはならない」
60歳以上が好発年齢なので、理想は60歳でまずCTを受ける。大動脈瘤がなければ、5年に1度の検査を目安にする。
もし大動脈瘤が見つかったら、破裂のリスクが高くなる50ミリに達するまで経過観察になる。基本は1年に1回だ。
【大動脈の手術件数100件以上の病院を受診】
「大動脈瘤の手術は複雑で、心臓病の手術を多くやっていても、大動脈瘤の手術件数は多くない病院がたくさんあります」
そういうところでは、大動脈瘤が大きくなっていてもすぐに手術に踏み切らない場合が少なくない。破裂前に大動脈瘤が発見できても、放置してしまっては意味がない。
「大動脈瘤の手術は病院によって手術件数が大きく異なり、手術の死亡率も違います。たとえば待機的胸腹部大動脈瘤の手術死亡率は全国平均7%(2016年)。大動脈手術を専門に行う当センターでは、19年から21年8月までに147人の待機的胸腹部大動脈人工血管置換術を行い、手術死亡は0人です」
【治療選択肢を示してくれる病院を選ぶ】
大動脈瘤が破裂のリスクが高い大きさになると、開胸・開腹手術か、金属の筒状の器具と人工血管からなるステントグラフトを用いた“切らない”治療か、になる。ステントグラフトは手術より体への負担が少ないが、すべての大動脈瘤に適しているわけではない。どちらか一方しか行ってない病院では治療方法が偏る可能性がある。
「負担の軽さだけに着目してステントグラフト治療を行った場合、それが合わない大動脈瘤では改めて手術が必要になることも。治療の難易度は上がり、致死率や合併症の率が高くなりかねない」
【かすれ声、嚥下障害が見られればすぐ病院へ】
自覚症状がほぼない大動脈瘤だが、例外的にかすれ声や嚥下障害がきっかけで発見に至ることも。かすれ声や嚥下障害が継続する場合は放置せず近くの病院で調べてもらった方がよい。
「急激に大動脈瘤が大きくなり、破裂寸前というケースも考えられます」
コロナによる「受診控え」の関係か、川崎大動脈センターではこの1年、大動脈瘤破裂を受けてから緊急手術を受ける患者の比率が増加気味だという。大動脈瘤は、「先手必勝の病気」と肝に銘じておきたい。