突然母が別人になった(8)このまま改善していくのでは…愚かにもぬか喜びをしてしまった
実はこの頃には私のストレスがかなり大きくなっていた。度重なる急な帰省で生活のリズムや仕事のスケジュールはガタガタだ。東京から熊本まで飛行機で片道1時間40分。東京の自宅から実家までは4時間かかる。長時間の移動で体の疲労も激しい。
しかし幸いなことに、3年前に会社を辞め、大学院で学生生活を送ったのちフリーランスの編集者兼もの書きとして仕事を始めており、締め切りさえ守ればかなりスケジュールに融通を利かせることができたのはよかった。
東京から母の入院先に電話をかけると、「入院当初のせん妄はもうないようで、話もしっかりしていらっしゃるし、歩行にも問題がなくなりましたよ」と看護師は言う。
母は、認知症の症状がはっきり出てきた頃からおそらく数カ月にわたるセルフネグレクト状態(自分自身の世話を放棄すること)で、これまで極度の脱水と栄養不足に陥っていたはずだ。入院して規則正しく生活すればそんなにも状況が良くなるのか、認知症だと思っていたのは勘違いだったのではないかと、愚かにも私はぬか喜びをしてしまった。(つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。