マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする」
黒田充(自治体情報政策研究所代表)
「国民の不安払拭のための措置を踏まえ、予定通り、現行の健康保険証の発行を来年秋に終了する」──。12月12日のマイナンバー情報総点検本部の会合で岸田首相はそう語った。しかし、総点検後の共同通信の世論調査では、来年秋の健康保険証廃止について、撤回と延期を求める回答が7割を超える。マイナンバーの問題を指摘してきたこの人が、上からの「デジタル化」を徹底的に批判する。
──総点検によって、国民の不安は払拭できましたか。
政府が措置をしたというだけです。世論調査が示す通り、不安解消にはほど遠い。12月上旬に取りまとめとしていたのに、報告は12月12日にズレ込みました。国会閉幕の前日で、総点検については国会審議にも付されず、問題です。
──そもそも不安を払拭できるような点検だったのでしょうか。
政府の総点検は情報が間違っていなければ問題ないという立場で行われています。データの間違いを正せばうまくいくと。しかも、誤りが見つかった部分を修正しているだけで、見つかっていない部分はそのままです。政府が不安払拭のための措置をしたと言い張るためのアリバイづくりでしかありません。
──トラブルは収まりませんか。
保団連(全国保険医団体連合会)はマイナ保険証の医療現場のトラブルについて、顔認証のエラー、負担割合の間違い、資格情報の無効表示などいくつも指摘しています。しかし、そうした指摘に対して、総点検では事実かどうかの調査もしていません。河野デジタル相はうまくいっている現場を視察するだけで、トラブルが多発している多くの現場には足を運ばない。これではトラブルの芽を摘んだことにはなりません。
──河野大臣は「世の中ゼロリスクはない」と発言しました。
とりあえず走り出し、不具合があれば修正すればよいとするアジャイルガバナンスという考え方でデジタル化を進めています。間違いやトラブルは織り込み済みなのです。
■まるで太平洋戦争のような光景
──総点検の対象8208万件のうち、ひも付け誤りが計8351件だったとして、河野大臣は「わずか0.01%」と胸を張りました。
政府は「デジタル化で誰一人取り残されない」と散々、強調してきました。デジタル庁のミッションにもそう書いてある。それなのに、0.01%だったら、大したことないと、平気で切り捨てる。大きな矛盾です。政府の存立意義は人権保障ですが、医療を受ける権利など人権はかなぐり捨てられています。
──「イデオロギー(政治思想や理念)的に反対する方は、いつまで経っても『不安だ』『不安だ』とおっしゃる」とも言いました。
デジタル化を進めないと日本は沈没する。だから、俺たちが国を守っているんだ。デジタル化という大義のもと、外野がうるさく言っても進めるんだという姿勢ですね。多くの人が亡くなろうと、太平洋戦争を続けたのと同じです。
──デジタル化と言えば、何でも通ってしまう。
デジタル化すれば、経費が削減され、不正がなくなると信じ込み、現場を見ることなく上から進める手法です。パソコンが世に出はじめた頃、社長がよくわからないまま買ってきたパソコンを従業員の机に置き、「明日からこれで仕事をせい」と言うようなものです。
──総点検を受け、官邸は廃止判断を先送りしようとしたが、河野大臣らが反発し、来秋廃止の方針が堅持されたようです。
岸田首相はマイナンバーの政策そのものやトラブルの実態について、よくわかっていない感じです。来秋の保険証廃止を強行することは内閣支持率低下にもつながっている。それでも、延期を決断できず、河野大臣に押し切られている。河野大臣の暴走は岸田首相の責任です。