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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(17)「籠脱け」被害で私は一計を案じた…「お宅の玄関までお供いたします!」

公開日: 更新日:

 実際、「お金を取ってくる」と言って、きちんと戻ってきて料金を支払ってくれたり、事前に連絡を入れておき「いま、女房に金を持ってこさせるから」と料金を払ってくれたりするお客がほとんどだった。

 だが、高額の「駕籠脱け」の被害に遭ったことがある。深夜、横浜までのお客(料金を払わなかったから、正しくは“客”ではなかったが)だった。「運転手さん、ここで止めて。いまお金を取ってくるから」の言葉を信じて、マンションの入り口付近で待ったのだが、30分待っても戻ってくることはなかった。

 50代の男。途中、会話も弾んでいたし、カジュアルな服装ではあったが、素性も確かなように思えたから、その男の言葉を信じた。だが、甘かった。高速料金を含めて約1万2000円分がタダ働きになってしまった。いわゆるインターロック式ではなく、誰もが中に入れる構造のマンションだったから、おそらく裏口から逃げたのだろう。

「いい人そうに見えたんですが……」

 朝方、仕事を終え会社に戻ったとき、同僚に顛末を告げた。すると、「詐欺をするヤツは外面がいいんだよね。災難だったね」と慰められた。私は「信じる者は騙される」という言葉を噛みしめるほかなかった。

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