広島・佐々岡真司が「無形の力」を爆発的に転化させた瞬間
1989年夏、私は都市対抗が行われる東京ドームで連日、選手のプレーを追っていた。特に印象に残っているのは、7月24日に行われた広島市(三菱重工広島)対東京都(NTT東京)の試合である。
その日の先発は、広島が佐々岡真司(NTT中国からの補強選手)、東京が与田剛。ともに同年、ドラフト1位でプロ入りし、今は広島監督、中日監督としてチームを率いる2人が初めて投げ合い、息の詰まる投手戦を繰り広げた。
右の本格派という似たタイプの2人の投げ合いからは、お互いに負けたくない、というライバル意識がひしひしと伝わってきた。
■145キロ前後の速球、鋭い縦のカーブ
佐々岡はストレートが常時145キロ前後で安定し、武器である縦のカーブのキレが良かった。与田は最速147キロをマークしたものの、制球に多少のばらつきがあった。結果、佐々岡が129球、与田が125球でともに完投、互いに9三振を奪う熱戦は2―1で広島が勝利した。佐々岡が与田に投げ勝ったわけだが、2時間20分の勝負は非常に見ごたえがあった。