「弱くもならなけりゃ強くもならない」凡庸なベテラン増加で思い出した元栃錦の毒舌
昭和の終わり頃の名古屋場所だった。記者クラブで春日野理事長(元横綱栃錦)を囲んだ時、あるベテラン力士が出場回数に関する記録を達成したことが話題になった。
「大したもんだよ」
記事に理事長の評価を入れようと次の言葉を期待した。ところが──。
「これだけ長く取っていて、弱くもならなけりゃ強くもならないんだからなあ」
春日野理事長は、若い記者にも菓子を勧めながら気さくに話してくれる人で、江戸っ子らしい毒舌も吐いた。
記録を作った力士は30歳を過ぎていた。4年前、31歳だった妙義龍に「今の時代、30はベテランじゃないでしょう」と言われて時代の違いを感じたものだが、先の名古屋場所では、幕内42人のうち20人が30歳を越えている。20年前の2002年名古屋場所は40人中13人、40年前の1982年は38人中10人だった。
スポーツ医療やトレーニング、体のケアが進歩した。年寄名跡の不足など引退後の不安があって、長く続けたい力士が多い。興行面でも、若々しい「鉄人」玉鷲のようなベテランは重要な存在だ。
自分はそれ以上にならなくても、経験や技は若手の関門になる。昔から十両や幕下上位には、したたかな「番人」がいた。
初土俵の平均年齢は40年間で16歳4カ月から、19歳6カ月になった。中学在学中に力士になれる制度はとうに廃止され、中学卒も激減したからだ。大学・高校の相撲経験者が増えて出世が早いせいか、新入幕の平均年齢はさほど変わらない。ただ、彼らにも足踏みする力士はいて、現在の幕内の13人は新入幕が25歳を過ぎていた。
これらの数字は限定的な比較だが、同じような傾向は、長いファンなら感じていると思う。