日本ハムを自由契約 金子千尋と変化球の魅力は…スローカーブの「176勝投手」を想起
「ファンのみなさんに全力で変化球を投げるところを見てもらいたい」
これが私はとても好きだった。当時のプロ野球マスコミといえば、古い野球観をずっと引きずっているのか、地上波中継の視聴率獲得には「わかりやすさが命」だという一種の呪縛(事実とは限らない)にとらわれているのか、あるいは単なる清原和博的な価値観の信望なのか、とにかく「オールスター=直球勝負が醍醐味」という類型ばかりがはびこっていて、その単純さやマンネリズムに私は辟易していた。
だから、金子の先述の発言は一種のカウンターカルチャー的な魅力に富んでいた。150キロ超のストレートを平気で投げられる当代一の大エースが、直球勝負というカビが生えたロマンに一石を投じるかのごとく「変化球推し」をアピールしたのだから、思わず拍手を送りたくなった。金子は野球の奥深さを体現してくれる新星だった。
細身で涼しげでファッショナブル、それでいて飄々とした口調で変化球へのこだわりを語る。そんな投手が球界の頂点に立ったわけだから、これからおもしろい時代が到来する予感がした。それだけに以降は故障による苦難が続き、少しずつ成績が下降していったことは残念でならない。今季終了時点で通算130勝は金子の全盛期を思えば少ないように感じる。