「ばあさんは15歳」阿川佐和子著
主人公は、高校入学直前の内村菜緒。母方の祖母・和を連れて東京タワーにのぼった帰り、降下のエレベーターがヘンな音を立てるのが発端。地上に降りてみたら、なんだかヘンだ。街には電線が多く、さらに空が広がっている。高いビルがないのだ。どういうわけか、56年前、昭和38年にタイムスリップしてしまったというわけ。本書はここから始まる物語だ。
小説家・阿川佐和子の才能についてはいまさら言うまでもない。坪田譲治文学賞を受賞した「ウメ子」をはじめ、「スープ・オペラ」「婚約のあとで」「正義のセ」など、数々の傑作がある。本書も、そういう傑作群に並ぶ作品といえる。ホントにうまい。
祖母の和が、将来の祖父と無事に結婚しないと菜緒は生まれてこないことになるから、まず障害を取り除き、2人が結ばれるように奮闘する。さらに、仕出し屋を営む実家で働くせっちゃんが、故郷の水害で命を落とさないようにも知恵を絞らなければならない。未来を知っていると結構大変なのである。そういうドタバタが、秀逸な人物造形とともに軽妙に描かれていく。
ネタばらしになるので詳しくは書けないがそのタイムスリップをめぐる法則、条件などもあって、これも面白い。1つだけ書いておけば、東京タワー、通天閣など、各地のタワー系がタイムスリップの入り口なのだという。ホントかよ、と楽しくなってくる。
(中央公論新社 1600円+税)