「朝日新聞政治部」鮫島浩著

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「SAMEJIMA TIMES」というウェブメディアがある。元朝日新聞記者・鮫島浩が50歳で会社を辞め、たった1人で立ち上げた小さなメディアだ。

 39歳で政治部デスク、その後、調査報道に専従する特別報道部デスクとして活躍。福島第1原発事故の「手抜き除染」をスクープして新聞協会賞を受賞した。傲慢なほど自信にあふれ、肩で風を切っていた新聞人が、なぜ会社に見切りをつけてフリージャーナリストの道を選んだのか。

 入社当時から昨年の退社まで、新聞記者として体験したことを赤裸々に書いたこの本は、自身の半生記であり、内部告発ノンフィクションでもある。登場人物はほぼ実名。リアルな取材現場、大物政治家の素顔、政治部出身者が幅を利かせる官僚的な組織風土、経営陣の振る舞い……。新聞紙面の裏側が明かされる。

 2014年、順風満帆だった記者生活が一転、地獄に落ちた。鮫島がデスクを務める特別報道部が5月20日に報じた「吉田調書」入手のスクープが発端だった。この調査報道は、福島第1原発の吉田昌郎所長に対する30時間にも及ぶ調書を国民に隠してきた国家権力と、「不都合な真実」を追うジャーナリズムの戦いになるはずだった。

 しかし、第一報には説明不足の点があり、記事のほころびを指摘する声が出始める。現場は続報で説明を補おうとしたが、経営陣は対応を先送りした。その少し後に、遅過ぎた慰安婦記事の取り消し、それにまつわる池上彰のコラム掲載拒否が問題化、朝日新聞はネット上で激しいバッシングを受ける。経営陣は危機管理に失敗したことを棚に上げ、記者に責任をなすりつけた。

 この一連の出来事で朝日新聞は大きなダメージを受け、社内に萎縮ムードが広がった。これでは権力に対して声を上げることなどできない。

 言論環境は大きく変化している。落日の大新聞からウェブメディアへ。自由な言論の場を自らつくった鮫島のこれからの発信に注目したい。

(講談社 1980円)

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