「水族館のアシカはいくらで買える?」野崎敏彦氏

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 自分が暮らす自治体の「地方財政」について、あなたはどれだけ知っているだろうか。貴重な税金が、何に、どんな使われ方をしているのか。家計への圧迫が続く昨今、増税にNOを突き付けたいなら、まずは身近な地方財政の実態を知る必要がある。

「安心・安全な日々の生活を支えているのが地方財政ですが、多くの自治体が財政難に陥っており、従来のやり方では運営が困難になっています。住民ひとりひとりが、地方財政に無関心であってはならない時代に突入しているのです」

 数多くの自治体の支援に取り組んできた著者が、「今こそ地方財政について関心を持ってほしい」という思いから“中学2年生でもわかる”を心がけ、「現状→問題点→解決策」の3ステップでわかりやすく解説したのが本書だ。

「住民の生活様式やニーズの多様化が進み、土地や建物はもちろん、美術品や工芸品、ゆるキャラのかぶりもの、そして公立の水族館にいるアシカに至るまで、自治体が保有する資産は増加してきました。これらの資産を維持・管理するには莫大な資金が必要ですが、人口減少と高齢化社会の到来により、税収増を期待することはできなくなっています。住民も“あれも、これも”から“あれか、これか”の時代になったことを認識する必要がありますね」

 役所にもさまざまな問題がある。自治体が保有・管理する公共施設には、庁舎や図書館などの「ハコモノ」、道路や上下水道などの「インフラ」、ごみ焼却場や火葬場といった「プラント」などがある。実はこれまで、自治体は資産の価額や取得日などを一元管理する「固定資産台帳」を用意する必要がなく、各部門がバラバラに台帳を作成していた。つまり、自治体の資産の総額を、誰も正確に把握できていなかったというから驚きだ。

■団塊世代の知識と経験の“新しい公共”を支えるのは

「総務省の要請により、近年ではようやく多くの自治体が固定資産台帳の整備に着手しています。そして、資産マネジメントへの活用や未利用地の売却で新たな財源につなげようとする自治体も出てきています。一方で、台帳を作って終わりの自治体もあり、その格差が広がっていく可能性もあります」

 そもそも“自治体にお金がない”ことの本質は、すでにある事業を継続していくための「経常的経費」に予算が費やされ、社会課題解決のために新たに実行する「政策的経費」が極めて少ないことにあると本書。その解決策としては、事業を住民にとっての効果などで検証する「行政評価」を取り入れ、廃止や導入を決めていくことが有効だとしている。

「今後の地方財政のカギを握るのが団塊の世代です。知識や経験を生かし、行政が提供してきた地域防災や子育て支援などを担う。“新しい公共”を創造してほしいですね」

 本書では、いち早く課題解決に取り組む自治体の例も数多く紹介している。自分の住むまちの取り組みを知るためにも読んでおきたい、地方財政の入門書だ。

(合同フォレスト 1650円)

▽野崎敏彦(のざき・としひこ) 1955年、愛知県生まれ。地方財政コンサルタント。北海道大学理学部数学科卒業。2015年に公認会計士、税理士、ITのプロなどの専門家を構成員とする一般社団法人日本行政マネジメントセンターを設立、代表理事に就任。自治体など約50団体と業務契約を結んでいる。

【連載】著者インタビュー

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