「焼き芋とドーナツ 日米シスターフッド交流秘史」湯澤規子著
「焼き芋とドーナツ 日米シスターフッド交流秘史」湯澤規子著
19世紀後半から20世紀にかけて、日本の産業革命の中核をなす染色、紡績の工場が日本各地に急造された。これら繊維関係の工場には多くの女性労働者が集まり、低賃金で長時間労働を強いられた(その状況については細井和喜蔵の「女工哀史」が有名。本書では細井に自らの体験を提供し執筆の協力をしながらも、籍が入っていないことから同書とは無縁とされ印税も手にできなかった「女工哀史」のもうひとりの著者・高井としを「わたしの『女工哀史』」を1次資料として用いている)。
寄宿舎に閉じこめられていた女工たちが待遇改善として要求したのが「自由な外出」だ。その権利を得た彼女たちにとって唯一の楽しみは、たまの外出時での買い食いで、中でも人気があったのが焼き芋だった。
一方、海の向こうのアメリカでは、日本より早く19世紀初頭に紡績業が隆盛を迎え、マサチューセッツ州ローウェルなど各地に綿工場が建設され、多くの若い女性労働者が投入された。当初、工場内に食堂はなく昼食の時間は工場と家の往復も含めて45分しかないので、大急ぎで食べなくてはならず、腹痛に悩む人が多かった。
やがて寄宿舎内に食堂ができるが、移民労働者の増大に伴いほとんどの女性たちが自宅から食べものを持参。そのときに多かったのがドーナツだった。ドーナツは間食というより食事として消費されていたようだ。
本書は、近代になって都市や工場という新しい場に誕生した日本とアメリカの女性労働者たちに焦点を当て、その日常茶飯の世界を丁寧に拾い上げて彼女たちが生きた姿を描く試みだ。そのキーワードのひとつが「シスターフッド」。女性の人権意識の向上と社会改革運動を展開していくためのこの連帯意識は日米独自に築かれていくが、その2つがあるところで交わっていく。
これまで語られることのなかったユニークな視点から織りなされる日米交流史だ。 〈狸〉
(KADOKAWA 2420円)