「善鸞」三田誠広著
「善鸞」三田誠広著
文暦2(1235)年、親鸞の嫡男・範意は、法然上人の流罪に連座し、越後に配流されていた父・親鸞と京の念仏堂でおよそ20年ぶりに再会する。8歳で出家し、比叡山で修行してきた範意は、父の弟子になりたいと頼むと、親鸞から「善鸞」の法名を与えられる。
そのとき、父が息子を抱き寄せるようにして耳元でささやいた言葉は、善鸞にとって、まさに秘密の儀式であった。
以後、20年近く父のもとで側近を務めた善鸞は、やがて親鸞にはない新たな教えのごときものが、胸の内で育ちつつあるという予感を持つ。
その頃、かつて親鸞が浄土真宗を広めた東国では門徒が専修念仏を曲解し、造悪無碍に走る一方で、忍性の真言律宗、日蓮の日蓮宗など新興宗教が流入していた。
親鸞の命を受け善鸞は東国に向かうが、そこには親鸞面授の門弟・性信や浄土真宗高田派の真仏らがおり、確執を生むことなる。切羽詰まった善鸞が、彼らの前で「父から秘事の法門を授けられた」と語ったことが親鸞の耳に入り、善鸞は義絶される。
親鸞の嫡男にして、数百年後まで存続した「秘密の講」を始めた善鸞の生涯を描く。偉大なる父を持つ重圧と、超えたいという善鸞の野心、群雄割拠然とした宗教の興亡も興味深い。
(作品社 2860円)