経済のナゾ
「中流危機」NHKスペシャル取材班著
デフレは脱却したはずなのに実感がない。ふと立ち止まって考える経済のナゾ。
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「中流危機」NHKスペシャル取材班著
いまの若手社員はいざ知らず、かつて「1億総中流社会」などということばがあったのを覚えている読者も中高年には多いだろう。もちろん、とっくの昔に死語だ。
本書の帯にも「結婚できない」「正社員になれない」「自家用車を持てない」「持ち家に住めない」などが、ずらりと並ぶ。
こういうのが団塊ジュニア世代あたりから少しずつ増え始めて、1993年に3億2410万円だった男性の生涯賃金は、2019年には2億8000万円台にまで落ち込んだ。実に3630万円も目減りしている。
女性になると、さらに100万円ほど下がって3720万円減というのだからあきれてしまう。これでは中流危機どころか、中流消滅ではないかとすら感じられる。本書はそんな実情を取材したNHKスペシャル番組の書籍化。
時間と制作費を潤沢にかけることで定評のある番組だけに、本書も種々のデータだけでなく、実際の取材に基づいたエピソードが豊富。
特に番組放送後の追加取材まで入っている。コロナ禍のせいで収入が減り、せっかくのマイホームを手放さざるを得なかった子育て夫婦の例など、身につまされる話に事欠かない。
(講談社 1012円)
「なぜ男女の賃金に格差があるのか」クラウディア・ゴールディン著 鹿田昌美訳
「なぜ男女の賃金に格差があるのか」クラウディア・ゴールディン著 鹿田昌美訳
パッと書名を見ると「掛け声だおれの女性活躍で埋まらない賃金」の話かと思うが、実は本書はアメリカの話。著者はハーバード大で労働経済学を専門にする経済学教授だ。
実はアメリカでも20世紀の大半は男女の格差が当たり前だった。ウーマンリブと呼ばれた時代から長い年月を経て、ようやく、いまは大卒の男女がほぼ同一の賃金というところまで来た。
だが、問題はその後。結婚・出産・子育てというサイクルに入ると、ほとんどの場合、女性のキャリアが犠牲になる。結果、男女の賃金格差が生じるわけだ。ではどうするか。
著者は過去100年余りを視野に女性の労働の歴史的な変遷を見る。その上で現状の実態をさまざまなデータとリサーチで明らかにする。
日米でそれほど大きな違いがないことを含め、現代を再考するに適した本だ。
(慶應義塾大学出版会 3740円)
「『経済成長』の起源」マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン著 秋山勝訳
「『経済成長』の起源」マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン著 秋山勝訳
資本主義の世の中では、経済は右肩上がりでなければならない。金科玉条のごとくいわれることだが、そもそも人類の歴史において経済成長は当たり前だったのか。
実は200年前と比べると、現代のわれわれは圧倒的に裕福な暮らしを満喫している。200年前は産業革命が既に始まってはいたが、まだまだ生活様式までが劇的に変わるほどではなかった時代だ。
しかも、産業革命はヨーロッパの一部地域でのみ起こったのだ。その後、欧州の周辺国やアメリカ、また日本などが相次いで産業革命を成功させてゆくが、その波に乗れなかった国々も多い。
その違いの訳は何か。アメリカの経済学者2人が組んで世界の地理と歴史、政治、宗教などの諸要因を踏まえながら鋭く考察している。
(草思社 3740円)