名将から新監督まで!野球の深さがわかる本特集
「普通にやるだけやんか」岡田彰布著
5月28日に交流戦が開幕し、普段は見ない球団との試合を目にする機会も増えたのではないだろうか。今回は、希代の名将から新進気鋭の若手監督まで、4人の監督に関する本をご紹介。奥深い野球の世界をご堪能あれ。
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「普通にやるだけやんか」岡田彰布著
2度目の阪神監督就任1年目で18年ぶりのリーグ優勝に導いた著者は、一年を通して「普通にやればいい」という言葉を言い続けた。
言葉の裏に込められているのは、「実力以上を求めていない」「平常心を保て」という2つのメッセージ。この精神を浸透させるために取り組んだのが、優勝のカギを握った「四球の査定変更」である。
四球を安打と同様に高く評価したことの真意は、選手に「できないことをするな」と伝えること。これは川上哲治氏の「3打数1安打1四球で首位打者が取れる」というセリフが原点となったという。同じ2出塁であっても、「2安打」と「1安打1四球」では「できそう」という意識に格段の差がある。それを伝えるために四球査定のアップをフロントに申し入れ、制度から選手の意識を変えたのだ。
そのほか、「おぼっちゃまルーキーにはマスコミを活用」する人心掌握術や、「じゃんけん大会での勝負術」など、仕事にも人生にも効く岡田語録。
(Gakken 1540円)
「92歳、広岡達朗の正体」松永多佳倫著
「92歳、広岡達朗の正体」松永多佳倫著
現役時代は巨人で活躍、監督としてはヤクルト、西武をそれぞれリーグ優勝・日本一に導いた広岡達朗。成績もさることながら、指導した選手の中から、後の監督経験者を16人も輩出し、戦績以上の功績を野球界にもたらした。
“優勝請負人”の工藤公康もそのひとり。広岡は工藤を若手のホープとして期待をしていたが、高卒3年目の工藤はカーブの精度が落ちて自信を喪失していた。「ここで荒療治が必要」と感じた広岡は、シーズン途中の7月半ばであるにもかかわらずアメリカに野球留学させた。小利口であるがゆえに泥くさくない工藤の性格を見抜いていたので、生き馬の目を抜く競争社会であるマイナーリーグを見せたのだ。帰国した工藤の球速は10キロ以上アップし、エースへと成長してゆく……。
70年もの間、プロ野球とともに生き、ときには厳しく批判してきた広岡の人生に、王貞治や渡辺久信など14人のレジェンドの証言から迫る。
(扶桑社 2310円)
「聴く監督」吉井理人著
「聴く監督」吉井理人著
著者は2023年にWBC投手コーチとして世界一を経験、そして、ロッテの監督に就任してチームをリーグ2位に導いた。
選手引退後に筑波大大学院で野球のコーチング理論を研究し、「自ら考え行動する選手を育てる」ことがモットー。そのために練習やその後の自由な時間のほとんどを選手との対話に割くという。
このとき意識しているのは聞き役に徹すること。「これからどうしようと思っているの?」という簡単な質問を日常的に繰り返して、選手が自身をメタ認知するきっかけを与えるのだ。
また、常に選手の周りをうろちょろして「監督がいるぞ」と身構えなくていい環境を目指した。ロッカールームに監督がいても、いびきをかいて寝ている選手がいるくらいが著者にとっても居心地が良いという。
ビジネス書を漁った就任直後から、佐々木朗希の故障の真相、オリックス優勝決定直後のブチ切れミーティングまで、怒涛の2023年を振り返る。
(KADOKAWA 1650円)
「日本野球の現在地、そして未来」井端弘和、西尾典文著
「日本野球の現在地、そして未来」井端弘和、西尾典文著
WBC優勝後に栗山氏が代表監督を退任し、その後を継いだ井端監督。歴代の代表監督は、多くのスター選手を束ねる力のある“球界の顔”が選出されてきた傾向があるため、“いぶし銀”のチャンスメーカーだった井端が選出されたことに批判の声も多かった。
しかし、初陣となった2023年のアジアプロ野球チャンピオンシップでは見事に優勝。就任からわずか2カ月の準備期間しかないなかで結果を出せたのは、2つの経験があった。
1つ目は、原監督の指導を受けたこと。途中出場がメインとなった巨人時代では積極的に監督と采配について意見を交わし、監督業の下地を培った。2つ目は、U-12侍ジャパンでの監督経験。寝坊で遅刻する選手や、チームに打ち解けられない選手など、さまざまな小学生の指導を経て、個を尊重することを学んだという。
共著者の西尾氏は筑波大大学院出身のスポーツライター。玄人志向の監督の凄みに鋭いインタビューで迫る。
(講談社 1760円)