K-POPに続き文学も韓流ブーム 「韓国の小説」特集

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「父の革命日誌」チョン・ジア著、橋本智保訳

 あの頃「釜山港へ帰れ」を歌いまくった人も、ヨン様ブームを苦々しく思った人もいるに違いない。韓国のブームは国境など軽く超えて日本になだれ込む。となると、次にやってくるのは、韓国文学ブームかもしれない。



「父の革命日誌」チョン・ジア著、橋本智保訳

 父のコ・サンウクが電信柱に頭を打ちつけて死んだ。私が高校生のとき、父は長い獄中生活を終えて電気も通っていない故郷に帰った。還暦間近の社会主義者である父は、意識だけが先走り、母はそんな父を「文字農業者」と呼んだ。

 父の葬儀を担当した葬儀場の共同社長の1人、ファン社長は、私のいとこの同級生だ。ファン社長が母に、10年ほど前に自分の父の消息を知りたくて父を訪ねたと言うと、母はその名を尋ねた。ファン社長が「ファン・ギルスです」と答えると、母は偽名ではないかと疑った。ファン社長と思い出話をしていて、私はかつて父がアケビなどをとって来たとき、山帰来や野菊も待ち帰ったことを思い出した。私は社会主義者の父しか知らなかったのだ。

 父の葬儀で意外な弔問客に出会う娘を描く長編小説。 (河出書房新社 2310円)

「ボンジュール,トゥール」ハン・ユンソブ著、キム・ジナ絵、呉華順訳

「ボンジュール,トゥール」ハン・ユンソブ著、キム・ジナ絵、呉華順訳

 ボンジュは12歳のとき、フランスのトゥールに引っ越してきた。窓から月明かりが差し込んで、その光で備え付けの机の側面にハングルが刻まれているのに気づいた。「愛するわが祖国、愛するわが家族 生きぬかなければ」と。この部屋に韓国人が住んでいたのだろうか。

 3年前、パリの学校の同じクラスに東洋人がいた。ボンジュがどこから来たのか聞くと、「オレはフランス人だよ」と言う。どの民族かと聞くと、発音が悪くて聞き取れないと言い返されたのだが、放課後、その子がボンジュの肩をつかんで「ちょっとふざけただけだよ」と韓国語で言った。韓国に住んだことのあるジュノンという生徒だった。今度のクラスにも髪を金色に染めた東洋人がいて、日本人のトシと名乗った。

 奇妙な落書きに導かれた出会いと別れの物語。 (影書房 1980円)

「耳をすませば」チョ・ナムジュ著、小山内園子訳

「耳をすませば」チョ・ナムジュ著、小山内園子訳

 キム・イルはクラスメートや先生、父親までもから「ばか」と呼ばれていた。ひとりで地面に絵を描いて遊んでいたとき、知らない男が声をかけ、「俺がおめえのオヤジだよ」と言って手を取った。見ていた子どもたちが「このおじさん、誰?」と聞くと、キム・イルが「うちの父さん」と言うので、大騒ぎになったが、男は「ばーか」と言って立ち去った。それを聞いた母親は言葉を失う。

 学校に通いはじめてもキム・イルは3年生になるまでハングルが読めなかったし、計算もできなかった。だがキム・イルは、ドアを解錠する音を聴くだけで暗証番号を言い当てるほど鋭い聴力を持っていたのだ。

 抜群の聴力を持つ少年と、さびれた市場の再生を図る店主、テレビ業界で生き残るために奮闘するディレクター。3者のドラマがもつれあうサバイバル小説。 (筑摩書房 1870円)

「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」ファン・ボルム著、牧野美加訳

「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」ファン・ボルム著、牧野美加訳

 1年前にヒュナム洞の住宅街に「ヒュナム洞書店」を開いたヨンジュ。当初は書店の醸し出す落ち着いた雰囲気に惹かれて町の人たちが集まってきたが、やがて客足は減った。カウンターには血の気が引いたような顔でヨンジュが座っていたからだ。客のミンチョルオンマは、そんなんじゃ客が入りたくても入れないと言う。ミンチョルオンマは、泣きたいのに我慢しているとなかなかよくならないからヨンジュが羨ましい、とも。ヨンジュは客が来ると、涙をふいて迎え、客も見て見ぬふりをした。

 ある日、ヨンジュは自分がもう泣いていないことに気づいた。自分の読んだ本の感想を書いてインスタグラムにアップすると、それを読んで遠くから来店する客も現れた。

 ソウルの小さな書店に集まる人びとの人間模様を描くお仕事小説。 (集英社 2640円)

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