大島渚編<後編>「映画とは犯罪」を体現した純粋さと挑戦力
「戦メリ」はカンヌ映画祭で確実にパルムドール(最高賞)を取ると期待されていた。
「カンヌじゃ、大島組は毎日のように豪勢なパーティーをやっていたんだよな。山本寛斎のカッコイイ服を着込んでさ。オイラも恥かいちゃったよな。カンヌの受賞作発表前日に、スポーツ新聞の記者がオイラのところへやってきてさ。『受賞後に取材したんじゃ明日の朝刊に間に合わないから、受賞したということであらかじめ喜んでる写真を撮らせてほしい』って言うんで、Vサインで写真を撮ったわけだよ。そしたら、受賞したのは今村昌平の『楢山節考』。翌日のスポーツ紙の見出しは『たけし、ぬか喜び』だからね。もうたまんないぜっての」
大島さんは映画を学ぶ学生たちに「映画とは犯罪である」と言っていたという。つまりタブーに抵触しアンタッチャブルなことをやれという意味だ。小津安二郎や黒沢明をこよなく愛する、中国人ドキュメンタリー作家の李纓監督はワイルドな大島さんの言葉に衝撃を受け、靖国神社をひたすら追ったドキュメンタリー映画「靖国」を発表。物議を醸し、上映中止に追い込まれた。一方、大島監督の阿部定事件を題材にした「愛のコリーダ」はわいせつ物頒布等の罪に問われた。当時問題となったのは俳優の男女(藤竜也、松田暎子)の実際の性行為のシーン。しかしこの映画、私はよく見ると愛についての極上の映画だと思うのだが。