(1)「東映ニューフェイス」に応募しトップ成績で合格も父親が猛反対、勘当される

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 昨年8月にこの世を去った“日本を代表するアクションスター”千葉真一さん。千葉さんにとって遺作の著書となったのが「侍役者道~我が息子たちへ~」である。自らの映画人生に加え、高倉健さんや深作欣二監督をはじめとする映画人との交流、さらに息子たちへの思いを語り尽くしたこの本から、とっておきのエピソードを一部再構成してお届けします。

 ◇  ◇  ◇

 私が映画の世界へ入るきっかけとなったのは東京の代々木駅で見た一枚のポスターである。

「東映ニューフェイス大募集!」

 と大きな文字で書かれたポスターを見たことが、私の人生を変えた。

 それまではオリンピック出場を夢見て体操に打ち込む学生だった。しかし、日本体育大学2年のとき、アルバイトでやった肉体労働がたたり、腰を痛めてしまった。医師の診断は「1年間の運動禁止」。これは体操選手にとって致命的だった。

 しかも、私の家は裕福ではなく、両親に無理を言っての進学だった。絶望的な気持ちになっていたとき、目に飛び込んできたのが先のポスターだったのである。

 幸運なことに、私は4次まで行われた試験に合格し、晴れて俳優となることができた。本名・前田禎穂だった私に芸名をつけてくれたのは当時の東映撮影所長の山崎真一郎さんだった。

「千葉出身だから、姓は千葉にしよう。名は俺の真一郎から取って、真一にしろ。千葉真一、素晴らしい名前じゃないか」

 後で知ったのだが、この年、東映のニューフェイスの応募者は実に2万6000人以上もいた。合格者は男性6人、女性14人という狭き門で、私がトップの成績だった。

 ところが、父は私が映画俳優になることに猛反対した。今と違って、当時は「芸能界など、しょせん水商売、そんな世界に入るとは、とんでもない」と考える人は多かった。

 まして私の父は、かつては陸軍のパイロットだった人である。

「おまえが体操でオリンピックを目指すというから俺は借金までして大学に行かせてやったんだ。それが芸能界に入りたいだと? そんな明日をも知れない職業に就く気なら、家を出て行け! もう帰ってくるな!」

 要するに勘当である。

「五輪目指して鍛えた体と運動能力で勝負するしかない」

 しかし、私の気持ちは変わらなかった。自分にはこの道しかないと腹をくくっていたし、それがわが家の窮状を救うはずだと信じていた。

 そんな私のデビュー作はテレビドラマ「新 七色仮面」に決まった。主人公の七色仮面を演じることになったのだが、自信はまるでなかった。東映入社後、俳優座で新人研修を受けたといってもズブの素人に近い。

 さあ、どうすべきか。自分は何でアピールすべきなのか。このとき、私にある考えがひらめいた。

「この体で勝負するしかない」

 私にはオリンピックを目指して鍛えた体と運動能力がある。それなら、どんな俳優にも負けない自信がある。そう思って私は監督に申し出た。

「お願いです。危険なアクションもすべて自分でやらせてください」

 こうしてスタントマンによる吹き替え一切なしのヒーロードラマが誕生したのである。仮面をかぶり、マントをした姿で2階から車に飛び乗るようなアクロバティックなシーンも全部自分でこなした。器械体操での経験が生きたのである。

 おかげで評判は上々。すぐに次の「アラーの使者」の主演も決まった。これらのドラマは今も変身ヒーローものの原点として高く評価されている。(つづく)

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