上岡龍太郎には桂米朝と共通する「品のある笑い」があった
上岡龍太郎(2023年5月19日没、享年81)
テレビ番組で一度同席しているはずなのである。しかし、それがどんな企画でだったのか思い出せない。言葉をかわしたのかも覚えていないが、静かで品のある印象だった。
父親が人権派の弁護士だったという。わが師の久野収から、反戦運動を一緒にやったと聞いたような気もする。
是非どこかで対談をと思いながら、2000年に引退されて、それはかなわなかった。その後はほとんど公の席に顔を見せなかったらしいが、桂米朝の葬儀には出たという。
それを知って、さもありなんと思った。品のある笑いに共通性がある。上岡もおさらいしている場面は見せなかったというが、しかし、稽古していなかったわけではない。
師弟物語を『夕刊フジ』に連載していた時、弟子の桂枝雀と米朝にそれぞれインタビューした。実にゼイタクな時間だった。
米朝はその著『落語と私』(ポプラ社)を、自分の師匠の桂米団治から言われた次の言葉で結んでいる。
「芸人は、米一粒、釘一本もようつくらんくせに、酒が良(え)えの悪いのと言うて、好きな芸をやって一生を送るもんやさかいに、むさぼってはいかん。ねうちは世間がきめてくれる。ただ一生懸命に芸をみがく以外に、世間へおかえしの途はない。また芸人になった以上、末路哀れは覚悟の前やで」