過去のトラウマが原因で病気に…WHOも推奨の治療法とは?
一方、EMDR療法は、トラウマとなった出来事を思い出しながら、トラウマ記憶の根源をなす否定的な自分や世界に対する考えを、肯定的な考えに改善する。その間、眼球運動やタッピングなど左右交互の刺激を加える。
新たな記憶が浮かんでくれば、それを手掛かりにして再び刺激を加える。これを繰り返すことで適応的な記憶の処理が進み、トラウマに伴う心と体の症状が解消されるという。
この程度なら一人でもできそうな気がするが、どうなのか?
「難しいです。トラウマになる記憶は一度、咀嚼して記憶するには大き過ぎるので、通常の記憶ではなく、いつもの自分とは隔てられた別の場所に、まるで冷凍保存するようにしまわれています。そのトラウマ記憶の処理を行うときには当時の感覚、感情、思考などが生々しく思い出されたり、思いがけない記憶が出てきたりすることもあるので、適応的な情報処理を適切に促す技術が必要です。このため治療法に熟練したセラピストが行う必要があります」
実際に中学時代に教師から「これが恋愛」と思い込まされ、性的虐待を受けた女子高生は、この治療で苦しみから解放されたという。記者も30分ほどEMDR療法を受け、自分が抱えていたある記憶を客観視できるようになり、その苦痛度が減じることを体験できた。