新抗うつ薬が4年ぶりに登場 副作用が少ないのが最大の特徴

公開日: 更新日:

 昨年11月に発売された薬「ボルチオキセチン(商品名トリンテリックス)」は、約4年ぶりに新しく登場した抗うつ薬だ。一番の特徴は「副作用が少ない」点になる。東京医科大学病院メンタルヘルス科主任教授の井上猛医師に話を聞いた。

■EDになりにくい

「昔の抗うつ薬は副作用が強く、患者さんに不評でした。2000年以降、副作用が少ない抗うつ薬が登場したとはいえ、やはり副作用はあった。さらに副作用を減らすことを目的に開発されたのが、今回の新薬です」(井上医師=以下同)

「昔の抗うつ薬」というのが、三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬。その後、副作用が少ない抗うつ薬SSRI、SNRI、NaSSAが登場。今はこれらが主に使われているが、SSRI、SNRIを服用すると半分くらいの人に性機能障害が起こり、薬を飲んでいる間続く。

「薬でうつ病が良くなっているのに副作用として性機能障害が起こるのは、特に若い方ではつらい。夫婦関係、恋人との関係を損なう副作用です。さらに、風邪や仕事が忙しくて病院に行けず薬が切れてしまった時、非常につらい副作用が生じます」

 それは船酔いのようなつらさで、顔の向きを変えただけで激しいめまいや強い吐き気に襲われる。頭の中でバチバチと電気が流れるような感覚が出現することもある。

 また、NaSSAには食欲増進の副作用があり、2週間で数キロほど太ることも珍しくない。

「新薬は、これらの副作用がほぼ見られません。その理由は、SSRIやSNRIなどと作用機序が違う点にあります」

 うつ病は、セロトニンをはじめとする脳の神経伝達物質の不足が関係していると考えられている。SSRIなどはセロトニンの「再取り込み」をする物質の働きを阻害してセロトニンを増加させるが、一方でセロトニンの増加が性機能障害を招く。そこで新薬は、「再取り込みの阻害」の作用を弱めた。

「ただ、それでは抗うつ薬としての効果が落ちる。それを補うため、セロトニン受容体の調整作用が備わっています」

 セロトニンは「セロトニン受容体」と結合して鎮静・睡眠・感情の調節をする。セロトニン受容体は十数種類あり、それぞれ働きが異なる。新薬は、さまざまなセロトニン受容体を刺激あるいは遮断し、セロトニンのほか、アセチルコリン、ヒスタミン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質が神経終末から遊離するのを促す。

■効果は従来薬に劣らず

「SSRIなどにより複数の神経伝達物質が増えるので、再取り込みの阻害作用を弱めても抗うつ薬の効果が落ちません」

 日本より早く承認された海外では、新薬の認知機能の改善にも期待が寄せられている。うつ病では認知機能が落ちるため、職場復帰してもうつ病発症前のように仕事をこなせないケースがある。新薬では認知機能に関係するアセチルコリン、ヒスタミンも増加するので、認知機能を改善することが期待されている。

「副作用が少ないので、特に軽症、中等症のうつ病には今後、この新薬が最初に処方されることが増えるのではないかと考えています」

 ただし、井上医師が強調するのは、うつ病治療において薬は一つの手段で、トータルな対策が必要だということ。たとえば、うつ病に悪影響を及ぼすストレスフルな環境に身を置いたままでは、うつ病は良くならない。いきなり職場復帰し以前と同じ働きをしようとすれば、再発リスクが高まる。職場環境の改善や、職場復帰訓練をデイケアなどで行い、徐々に心身をかつての日常に戻して、職場復帰を目指すことが不可欠だ。

【発症リスクの高い人】

 うつ病は誰でもリスクのある病気だが、子供時代に虐待やいじめを受けていた人は発症リスクが高いといわれている。

【再発リスクを避けるために】

 抗うつ薬は一般的に、症状が良くなってからも飲み続けることが必要。再発リスクを避けるため。初発の場合半年間、再発例では2年以上が目安。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    岡本和真と村上宗隆のメジャー挑戦に“超逆風” 大谷バブルをブチ壊したMLB先輩野手の期待外れ

    岡本和真と村上宗隆のメジャー挑戦に“超逆風” 大谷バブルをブチ壊したMLB先輩野手の期待外れ

  2. 2
    ロッテ佐々木朗希「強硬姿勢」から一転…契約合意の全真相 球団があえて泥を被った本当の理由

    ロッテ佐々木朗希「強硬姿勢」から一転…契約合意の全真相 球団があえて泥を被った本当の理由

  3. 3
    佐々木朗希の今季終了後の「メジャー挑戦」に現実味…海を渡る条件、ロッテ側のスタンスは

    佐々木朗希の今季終了後の「メジャー挑戦」に現実味…海を渡る条件、ロッテ側のスタンスは

  4. 4
    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

  5. 5
    「あぶない刑事」100万人突破で分かった…舘ひろし&柴田恭兵“昭和のスター”の凄みと刑事役の人材不足

    「あぶない刑事」100万人突破で分かった…舘ひろし&柴田恭兵“昭和のスター”の凄みと刑事役の人材不足

  1. 6
    ソフトB山川穂高「無神経ぶり」改めて露呈…31試合ぶり本塁打も身内から異論噴出

    ソフトB山川穂高「無神経ぶり」改めて露呈…31試合ぶり本塁打も身内から異論噴出

  2. 7
    石丸伸二候補に大逆風…「恫喝」訴訟で2連敗、都知事選後の国政進出シナリオも狂いが

    石丸伸二候補に大逆風…「恫喝」訴訟で2連敗、都知事選後の国政進出シナリオも狂いが

  3. 8
    蓮舫候補に一発逆転の「神風」は吹くのか…7.7都知事選「一歩リード」の小池知事を猛追

    蓮舫候補に一発逆転の「神風」は吹くのか…7.7都知事選「一歩リード」の小池知事を猛追

  4. 9
    都知事選最終盤に飛び交う「蓮舫狙い撃ち」の怪情報…永田町に出回る“石丸2位”データの真の狙い

    都知事選最終盤に飛び交う「蓮舫狙い撃ち」の怪情報…永田町に出回る“石丸2位”データの真の狙い

  5. 10
    猛チャージ石丸伸二候補に広がる危機感…広島からは「あんなぁ都知事に押し上げちゃいけん」

    猛チャージ石丸伸二候補に広がる危機感…広島からは「あんなぁ都知事に押し上げちゃいけん」