佐々木常雄
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佐々木常雄東京都立駒込病院名誉院長

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

卵巣がん治療の相談を…かつての患者の娘から手紙が届いた

公開日: 更新日:

 かつて私が担当医を務めていた男性患者の娘、Cさん(43歳・女性)から、このようなお手紙をいただきました。

 ◆  ◆  ◆ 

 12年前に父○○が胃がんを患った際に大変お世話になりました。その娘のCと申します。この度は、ご無礼ご迷惑とは承知でこのようなお手紙を書かせていただきました。

 昨年夏から下腹部に張る感じがして、F病院の婦人科を受診しました。腹水があると言われ、CTとMRI検査で「卵巣がん」の診断を受けました。

……それから何冊ものがん関係の本を購入して読みました。漢方を取り入れ、食事に気をつけ、免疫力を上げる……いろいろ工夫して、自分なりに頑張ってみました。

……標準治療のことも知り、完治している人もたくさんいることも知りました。しかし、手術できない場合のがんの死亡率は高いことも知りました。

……私の結論としては、F病院の勧める標準治療ではなく、いまは××クリニックに通って少量の抗がん剤治療で様子を見ることでした。自分の気持ちにウソはつけません。治ることだけを考えております。気持ちを落とさず、希望を持って引き続きやっていこうと思います。このような状態ですが、先生のご意見を伺えれば幸いと思います。

 ◆  ◆  ◆ 

 私はこう返事をしました。

 Cさんへ

 お手紙ありがとうございます。お父様が胃がんで、私が担当させていただいた12年前のことはしっかり覚えております。あの時はお力になれずに残念でした。

 大変申し訳ありませんが、正直、娘さんであるあなたのことは思い出せないでおります。お手紙を拝見し、こうして返事を書いておりますが、残念ながらこのお手紙だけでは病気の詳細が分からないので、確かなことは言えません。それでも、少し申し上げたいことがあります。

「免疫力を上げながら、自分で作ったがん細胞なのだから今までの生活を見直して治したいと思うようになりました」と書かれていますが、それだけではがんは治らないのです。今までの生活を見直してがんが治るなら、私もそちらを選びます。いま、あなたが行っている「漢方、食事、びわの葉の温灸、気功」だけでは、卵巣がんを治すことはできないと思います。少量の抗がん剤治療でも無理だと思います。

 少量の抗がん剤治療には、副作用が少ないことで心を惹かれるのではないでしょうか。F病院の医師が勧める標準治療に踏み切れないのは、副作用のことを心配されてのことと思います。

 たしかに、標準治療を受けたから絶対に治るとも言えません。副作用が出る可能性はもちろんありますが、F病院の医師は、副作用が出たらそれに対応して頑張ってくれると思います。標準治療というのは、効果にたしかな科学的な根拠があり、そして副作用のこともしっかり検討した上で「標準治療」になっているのです。

 良くなる可能性が高いのに、標準治療を受けないのは本当にもったいないと思うのです。どうか、F病院婦人科でもう一度相談して説明を受けてみてください。私からF病院婦人科の医師にお願いしても構いません。場合によっては、診療情報提供書を書いてもらって、他の病院でのセカンドオピニオンも受けてみることも勧めます。ご希望でしたら、私が信頼する婦人科医を紹介することもできます。

 この度、私の意見を求めてこられたのは、お父様のご縁だと思います。私はぜひお役に立ちたいと思っております。かけがえのない命です。一度しかない命です。Cさん、どうかもう一度、よく考えてみてください。お願いいたします。

 あなたが言われるように、「気持ちを落とさず、希望を持って」頑張っていただきたいと思います。

 またいつでもご連絡をお待ちしております。

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