かつての同僚が胃がんに…医者は自分の専門分野で亡くなることもある
研修医の研修状況を確認するため、グループのM病院を訪ねた時、元同僚のK先生に会いました。K先生とは、約20年間、一緒に胃がんの患者の治療にあたりました。
標準治療など示されていない時代で、彼に無理を承知で手術をお願いし、治癒した患者はたくさんいらっしゃいました。K先生の手術の技術は院内外で定評があり、私は患者の胃がんに関することについて、ほとんどなんでも相談していました。
K先生がM病院の研修医担当に栄転されたのが5年前です。それからしばらくして人づてに聞いたところによると、彼自身が胃がんになったといいます。しかも、肝臓に多数の転移があるというのです。にわかには信じられない話でした。
久しぶりにお会いしたK先生は、いつものようにやや太った体形で、白衣のボタンが前に突き出ていました。「やあ」と、お互いに目と目が合います。なにか言いたげに思えましたが、私は普段と変わらずにあいさつしました。なんとなく、K先生の顔の皮膚が少し荒れているような気がしました。
事務係の方と共に初期研修医の教育、研修状況を報告してもらって、帰路につきました。