かつての同僚が胃がんに…医者は自分の専門分野で亡くなることもある
病院に滞在していたおよそ1時間のうち、30分くらいK先生と2人だけになりましたが、個人的な話はしませんでした。先に耳にした話では、K先生は2カ月前に胃がん手術で開腹したものの肝臓転移がひどく、そのまま閉じたといいます。K先生自身はすべてを知っているけれど、絶対に秘密ということになっているらしいのです。
K先生は私に何か言いたげに感じましたが、そのことには触れませんでした。私は知らないことになっています。彼から言い出さない限り、私は話せません。どう治療して、どう勤務されているのか……分からないことだらけでしたが、仕方がないのです。心の中で「がんばれよ。お大事にな」と思いながら、そのまま別れました。
■半年後に訃報を聞いた
帰りの電車で、「K先生はもともと太っていたが、あのお腹の膨らみは、まさか腹水によるものだろうか……」とも考えました。気のせいか、何か寂しい気がしました。抗がん剤治療しかないだろうに、その言葉さえ出せませんでした。
病院から帰る際、K先生は玄関まで送ってくれました。別れてから思いました。