かつての同僚が胃がんに…医者は自分の専門分野で亡くなることもある
「あの体で、満員電車に乗って通勤しているのだろうか? たしか、自宅からは1時間以上かかるはず。厳格な彼は、きっと、朝早く出勤しているのだろう。手術には入っているのだろうか……。そういえば、昔から汗っかきだった」
K先生とは、その時に会ったのが最後となりました。半年後、彼の訃報を聞いたのでした。
K先生には、本当に長い間、お世話になりました。上司に対して遠慮なく、自分の意見を進言できる方でした。彼は、真面目で、細かいところにも目が行き届き、厳格とは言いすぎかもしれませんが、意見を曲げることはありませんでした。その点で、彼の下についた医師はその厳格さに大変な苦労をした、という話を何回も聞いたことがあります。でも、患者をお願いするのには、全幅の信頼がおける方でした。
10年ほど前、私がある学会の治療ガイドライン作りのまとめ役になった時、K先生にも委員として参加いただきました。手術の部門については、多くを彼に頼っていました。もちろん、学会のガイドラインなので、原案を検討委員会と評価委員会で審査し、さらに学会内のパブリックコメントも検討して完成されます。K先生は自身が関係された部分の文案の作成だけでなく、他の委員の文案もしっかり読み、検討してくれました。委員の方々には、委員会の開催前に、提出する文案をすべて読んでいただいてもらうのですが、彼はしっかり読み込んで一字一句訂正してくれていました。